誰もが最低1台は持っているといわれるスマートフォン。非接触の観点から、アプリを通して会員証やお得なクーポンを配信して顧客を維持・獲得する戦略を取る企業が増えている。コロナ禍を追い風としてスマホだけで完結する仕組みが定着し、定期券や会員証をスマホに収納することも当たり前となった。
10月からマイナンバーカードも健康保険証として使えることとなり、ますます紙が使われなくなる一方で、紙の会員証にプライドを持ってこだわり続ける外食チェーンが存在することをご存知じだろうか。餃子の王将、そしてファーストキッチンだ。大戸屋もかつてはスタンプカードを発行し、多くの顧客に愛用されていた。残念ながら買収劇と前後して廃止となり、「顧客サービス」「顧客目線」という単語は同社の戦略において見つけることが難しくなった。
餃子の王将は積極的に活用している。あらためて同社の業績を確認してみると、9月の直営全店売上高は57億1500万円(前年同月比91.3%)、既存店売上高は55億9300万円(前年同月比90.6%)前年同月比で減収となったものの、営業可能である5時から20時までの売上は前年同月比106%と前年を上回った。
「酒類売上の前年同月比減収額を本年9月の売上に加算すると、ほぼ前年並みの売上になることから、緊急事態宣言等による営業時間の短縮及び酒類提供禁止の対応が、減収の主な要因であると考えられます。直営全店売上高のうち、店内売上高は前年を下回りましたが、店外売上(テイクアウト・デリバリー)は、前年同月比151.2%と大幅に増加しており、店外売上が占めるシェアが45.8%(前年同月33.9%)に達したことからも、引き続き店外売上がコロナ禍における売上を牽引いたしました」(餃子の王将のリリースより)
緊急事態宣言の発出された都道府県においては、3密を避けるための客席利用制限などをうけて、飲食店は店内飲食を伸ばすことは難しかった。中小飲食店が対応に苦慮するなかで、外食チェーン各社はテイクアウトやデリバリーに戦略の軸を置き、中食需要の取り込みを拡大・強化していった。
6月25日よりスタートした「2022年版ぎょうざ倶楽部お客様感謝キャンペーン」は、王将ファンならば必ず持っていると言われる「紙のスタンプカード」を活用した戦略だ。多くのファンは利用を重ね5%割引となる「ぎょうざ倶楽部会員カード」の取得を狙っているといわれる。
顧客はスマホでもスタンプを獲得することは可能であるが、あえて紙のスタンプカードを所有する意味はどこにあるのだろうか。ここに、餃子の王将が仕掛ける顧客ロイヤルティ向上の取り組みを見て取ることができる。
筆者もスマホアプリをダウンロードしてみた。スマホアプリの場合、画面は自分しか見えない。ここが大きなポイントとなる。自身のステータス(利用履歴など)は自分のスマホで確認することはできるが、ほかの人はもちろん店舗スタッフにさえも精算時に初めて見せるものだ。紙のポイントカードはほかの人に見せることも可能であり、この点を意識しているように映る。
1月18日から6月13日まで開催された前回のこのキャンペーンでは、王将の各店舗において、金色のプレミアム会員カードを手に持ちながら並んでいる顧客を多く見かけた。プレミアムカードを持つ理由は、単に割引や特典が多いからだけではなく、クレジットカードでいうところのゴールドカードを持っているという「優越感」を感じられるからではないか。
利用回数が増えると特典や割引額が増え、顧客のステータスもあがる。クレジットカードのように年会費を払う必要もなく、ただ頻回に利用することで、店舗からも重要顧客として認知される。いわゆるマーケティングにおける「ロイヤルカスタマー」の地位を自他ともに確立したことになる。ゴールドカードを所有する顧客が空港などにある専用ラウンジを利用できる「優越的な立場」を、王将全店舗で体験することができる。顧客満足度を高めることは各社とも目指しているところであるが、外食業において餃子の王将ほど成功した事例は決して多くない。