カジュアル衣料品の「ユニクロ」を展開するファーストリティリングは10月14日、2021 年8月期連結決算を発表した。柳井正会長兼社長は衣料品のサプライチェーン(供給網)に関し、「人権侵害は容認しない」と宣言した。中国新疆ウイグル自治区で生産される綿に強制労働の可能性が指摘された問題が、ユニクロの経営リスクとして浮上しており、柳井氏はトップとして人権重視の姿勢を強く打ち出した。
中国の新疆ウイグル自治区をめぐる問題では、4月8日の決算会見で「人権問題というよりも政治問題であり、われわれは常に政治的に中立だ」(柳井氏)とコメントし、明言を避けてきた。新彊ウイグル自治区で採れる綿花は「新彊綿」と呼ばれ、高品質なことで知られているが、ウイグル族の労働者の強制労働という人権問題が存在することが指摘されてきた。
新彊ウイグル地区の団体が関わった衣料品などの輸入を禁止する措置に違反したとして、米税関当局はユニクロのシャツの輸入を差し止めた。フランスの司法当局はウイグル自治区での人権問題をめぐり、「罪の隠蔽」の疑いでユニクロのフランス法人など4社を捜査した。
柳井氏は10月14日の会見で、供給網の監査体制について説明した。ユニクロ店舗の6割超は海外にあり、うち約半数は中国に立地する。もし、中国で不買運動が起きれば経営に深刻な打撃を与えかねないという事情がある。
これまでも中国国内では、少数民族ウイグル族の弾圧に対して懸念などを表明したブランドをめぐり不買運動が勃発。中国3位の独アディダスや4位の米ナイキなどが軒並み減収に見舞われた。「我々は政治的に中立だ」との姿勢から初めて「人権侵害は容認しない」と一歩も二歩も踏み込んだ。これが不買運動を誘発することにならないかと、注目されている。
一方で柳井氏は「安易な政治的立場に便乗するビジネスは死を意味する」「多くの企業に政治的選択を迫る風潮に疑問を感じる」とも訴えた。中国という巨大マーケットにおける経済成長と、人権のどちらを優先するのかは、両天秤に掛けるような種類の話ではない。
ファストリの株価は、ウイグル自治区の問題を嫌気して下落。4月9日の同社の株価は大きく値を下げ、終値は前日比マイナス3090円の8万7890円だった。その後も、人権問題について明確な姿勢を示していないとの海外投資家の懸念が強まり、株価は左肩下がりとなった。10月14日の決算会見で、柳井氏が「人権侵害は容認せず」と述べたため、今度は、皮肉にも「不買運動への懸念」(衣料関連を担当するアナリスト)から売られた。
10月25日の東京株式市場で一時、前週末(10月22日)比3550円マイナス(4.87%安)の6万9230円まで崩落。20年10月14日以来の安値(年初来安値)をつけた。21年3月2日の年初来高値11万500円から37.3%下げたことになる。中国リスクが経営の根幹を揺るがしている。
業績は好調だ。2021年8月期の連結決算(国際会計基準)は、売上高に相当する売上収益は前期比6.2%増の2兆1329億円、営業利益が66.7%増の2490億円、純利益は88.0%増の1698億円だった。巣ごもり需要を取り込んで2期ぶりに最高益となった。21年8月期の配当は当初予定通りの年480円とした。
業績を牽引しているのは海外の事業だ。営業利益が2.2倍の1112億円に達した。国内のユニクロ事業は17.7%増の1232億円と比較して勢いの差は歴然としている。為替差益が膨らんだことや米国のジーンズ子会社の清算益を計上した効果も後押しした。