同様の研究は、シェとクロンロッドらマーケティング研究者たちも行っています。エコカーの広告で、CO2排出量を「10%削減」、あるいは「10.2%削減」と表示した場合、広告に疑いがなければ、10.2%という細かい数字を提示したほうがその自動車メーカーをより有能に感じることを実証しています【註3】。
以上の研究は、細かい数字を用いたほうがキリの良い数字を用いるよりも望ましいということを示しています。しかし、キリの良い数字にも良い点があります。それは、製品のベネフィットがどれだけ持続するのかがはっきりしないときです。これを実証したのはペナ=マリンとバルガバです【註4】。
ペナ=マリンらは、エナジードリンクのカフェイン含有量を「100mg」、あるいは「102mg」と表示し、被験者にカフェインのポジティブな効果(覚醒作用など)がどれだけ持続するかを予想してもらう実験を行いました。その結果、100というキリの良い数字で表示したほうが、ポジティブな効果がより長く続くと感じられました。「200mg」と「203mg」でも同じ結果が得られています。予想する持続時間が長くなるほど製品態度も向上することも確認しているので、持続時間と関係するベネフィットを示すときには、キリの良い数字のほうが望ましいということになります。
なぜ細かい数字のほうが持続時間を短く感じるのでしょうか。ペナ=マリンらによると、それは、細かい数字はより具体的という印象を与えますが、同時に具体性なモノは時間が経つと変わりやすいと感じるからなのです。彼らは、キリの良い数字が「安定性」や「耐久性」と意味的に関連することも確認しています。つまり、キリの良い数字を見ると「安定性」が意識され、それが持続時間を長く感じさせるという仕組みなのです。
以上の研究から、消費者に伝える情報に用いる数字については注意が必要といえます。意味的に同じであったり違いがわずかであったりしても、キリの良い数字と細かい数字では消費者に与える印象が異なります。消費者は、製品やサービスに関する情報に細かい数字を提示する企業に対しては、信頼できる情報を出している、知識が高い、能力が高いといったポジティブな印象を、キリの良い数字を提示する企業に対しては、意図的に曖昧にしている、約束を守れないといったネガティブな印象を持つ可能性があるのです【註2、註3】。
ただし、エナジードリンクのように製品ベネフィットの持続時間が重視される製品においては、その根拠となる製品属性についてはキリの良い数字を示したほうが、その製品をより有用に感じさせる可能性が高まります。情報のタイプにも注意を払う必要があります。この現象は、マウスウォッシュの口臭を抑える効果、頭痛薬の痛みを抑える効果、除菌スプレーの除菌効果、クリーナーの防汚効果などについても当てはまると考えられます。
(文=白井美由里/慶應義塾大学商学部)
【参考文献】
【註1】Schindler, R. M. and R. F. Yalch (2006), “It seems factual, but is it? Effects of using sharp versus round numbers in advertising claims,” Advances in Consumer Research, 33, pp.586-590.
【註2】Zhang, Y. C. and N. Schwarz (2012), “How and why 1 year differs from 365 days: A conversational logic analysis of inferences from the granularity of quantitative expressions,” Journal of Consumer Research, 39 (2), pp. 248-259.
【註3】Xie, G. and A. Kronrod (2012), “Is the devil in the details?” Journal of Advertising, 41 (4), pp. 248-259.
【註4】Pena-Marin, J. and R. Bhargave (2016), “Lasting performance: Round numbers activate associations of stability and increase perceived length of product benefits,” Journal of Consumer Psychology, 26 (3), pp. 410-416.