数字は様々な製品やサービスの説明に使われています。「果汁をふんだんに使用」などの文字情報よりも、数字を含む「果汁80%」のほうが伝えやすいですし、受け手も理解しやすくなります。数字は客観的ですが、表現の違いで受け手の感じ方に影響を与えることがあります。消費者行動研究では、そうした表現と消費者の判断の関係を分析しています。今回はそれらの中で、キリの良い数字と細かい数字を比較した研究を紹介したいと思います。
1年と365日はまったく同じ長さですが、365日のほうが詳しく、より正確に感じられる傾向にあります。この現象は、マーケティング研究者のザングとシュワルツ(2012)が発見したもので、「詳細効果(granularity effect)といいます【註1】。ザングらはこの効果を実証するために、自動車の修理にかかる時間を「30日」、あるいは「1カ月」として被験者に提示し、修理完了日が予定よりも早まると思う日数と遅延すると思う日数を回答してもらう実験を行いました。結果は、早期完了も遅延も予想日数は30日のほうが短くなりました。細かい数字である30日のほうがより正確に感じられ、予定日からのズレが小さくなったのです。正確な情報を出しているという印象を受け手に与えたいのであれば、細かい数字を用いたほうがよいということになります。
ザングらは他にも実験を行っており、最先端技術を搭載した新車の発売時期を「2年以内」、または「104週間以内」とした記事を被験者に読んでもらい、発売時期が遅れると思う月数を回答してもらったところ、104週のほうが遅延は短く、予定通りに発売される可能性が高いと予想されたことを確認しています。さらに、GPSデバイスのバッテリー駆動時間を「2時間まで」、あるいは「120分まで」と提示し、実際の駆動時間を予想してもらう実験においても、120分のほうが提示時間に近く、駆動時間をより長く感じたことも明らかにしています。
数字にはよく使われるものとそうでないものがあり、よく使われる数字は鮮明に記憶され、頭に浮かびやすくなります。シンドラーとヤルチらマーケティング研究者によると、10や20などのキリの良い数字は、「10枚ぐらい」「20人ぐらい」のように、定かではない数量を表現するときによく使われるため、数の推定に使うものとして記憶されています【註2】。
したがって、人は「部屋に100人いる」と聞くと、それはだいたいの数であって、実際は100人前後いると思い、「部屋に106人いる」と聞くと、しっかり数えたのだなと思う傾向にあるのです。本当に100人いることを伝えたいのであれば、「部屋にちょうど100人いる」「部屋にいるのはきっかり100人だ」のように、「ちょうど」や「きっかり」などの語彙を足さないと、概算ではないことが相手に伝わりにくいのです。
このことからシンドラーらは、だいたいの数を表すのに使う100のようなキリの良い数字よりも、106のような細かい数字のほうが、消費者により客観的で事実に基づき正確であると受け取られると考えました。
この考えを確認するために行った実験は次の通りです。デオドラント(制汗剤)の広告を作成し、他のブランドと比較したときの効果の持続時間が「47%長い」、「50%長い」、あるいは「53%長い」というメッセージを付けて被験者に提示し、そのメッセージに対する正確さ(正確である、科学的根拠に基づいている、詳しい、の3項目で測定)を評価してもらいました。その結果、正確さの評価は47%と53%では差がなく、かつそれらは50%よりも高くなりました。細かい数字のほうがキリの良い数字よりも、数字の信憑性が高く感じられることがわかります。