ローソンは現在5社との提携と札幌、名古屋、大阪など3つの自治体が運営する地下鉄駅構内への進出で194店舗(21年8月末時点)展開している。店舗数では2社に遠く及ばないローソンだが、東京メトロや東急電鉄など乗降客数でトップ5に入る鉄道会社と取り組んでいる。そのため東急渋谷駅、東急横浜駅、東京メトロ大手町駅など乗降客の多い拠点をおさえている。
「H2Oの提携によって今後は阪急・阪神電鉄内のエキナカ店舗『アズナス』98店舗を順次ローソンに転換していくほか、東急電鉄のエキナカでもさらに店舗展開を加速していく」(ローソン関係者)という。
現在大手コンビニと提携せずに独立系のエキナカコンビニを展開しているのは、JR東日本(コンビニのNewDaysと売店のキオスク)、JR西日本(ベルマートキヨスク)、南海電鉄(コンビニのアンスリーと売店のnasco)、京阪電鉄(アンスリー、nasco)など。このなかで特に注目されているのがJR東日本だ。
JR東日本は鉄道業界に君臨するガリバーだ。沿線の駅の総数は1676駅(営業キロ数は7401キロメートル)。営業キロ数、駅数ともに私鉄最大の近鉄ですら286駅(501キロ㍍)しかない。いかにJR東日本が巨大な鉄道網であるかわかるだろう。さらに1日の乗降客数は3537万人と2位の東京メトロ(1300万人)に3倍近く差をつけている。JR東日本と組むことができれば、エキナカ店舗では大手3社のなかで圧倒的な地位を確立することができる。
しかし、JR東日本を取り込むというのはそうたやすいことではない。
「一言でいえば難攻不落。よほどのことがないかぎり提携は難しい」(大手コンビニ幹部)
NewDaysの平均日販はローソンやファミマよりも10万円近く高いという話もある。セブンでさえ、JR四国、JR西日本とJRグループの外堀を埋めながら、JR東日本との提携を実現していないことがそれをよく表している。
しかし一方で、JR東日本は人手不足でキオスクの閉店などを進めているという。ここに大手コンビニにとっては大きなチャンスがある。ファミマもまた、無人レジというツールでこうした店舗のてこ入れに手を挙げたいところだろう。
それだけではない。ファミマが無人レジで手を結んでいる「TOUCH TO GO」はJR東日本グループとベンチャー企業、サインポストの合弁会社。無人レジの事業を手掛けることで、JR東日本との関係を深めているのである。もちろんJR東日本は「TOUCH TO GO」と組んで高輪ゲートウェイ駅で実証実験を進めているが、ファミマが複数のエキナカ店舗で無人レジの実績を積んでこれを手みやげに提携を申し入れれば、自主独立路線を堅持するJR東日本といえども胸襟を開いて話をする余地が生まれる可能性はある。
大手コンビニのエキナカ戦争は最終決戦へと向かっている。
(文=松崎隆司/経済ジャーナリスト)
●松崎隆司/経済ジャーナリスト
1962年生まれ。中央大学法学部を卒業。経済出版社を退社後、パブリックリレーションのコンサルティング会社を経て、2000年1月、経済ジャーナリストとして独立。企業経営やM&A、雇用問題、事業継承、ビジネスモデルの研究、経済事件などを取材。エコノミスト、プレジデントなどの経済誌や総合雑誌、サンケイビジネスアイ、日刊ゲンダイなどで執筆している。主な著書には「ロッテを創った男 重光武雄論」(ダイヤモンド社)、「堤清二と昭和の大物」(光文社)、「東芝崩壊19万人の巨艦企業を沈めた真犯人」(宝島社)など多数。日本ペンクラブ会員。