年金・退職金・退職前の準備…「FIRE」で早期リタイアしたい人が知るべき事実

 ついでに面倒なのが、税金の計算が変わることだ。退職所得控除の制度上、勤続年数が20年以下の場合、40万円×勤続年数が非課税となる。これが20年を超えると、800万円+70万円×(勤続年数-20)までが非課税だ。30年勤続したとすれば、800万円+70万円×10年=1500万円、つまり1500万円が、税金がかからず丸々受け取れる。長く勤めて1000万円以上退職金をもらえるなら、この制度を使った方がトクだと考える人は多く、それゆえ人材の流動化を妨げているという声もあるが、制度は制度だ。

 退職金なんてあてにしていない、公的年金にも頼らない、会社員なんて辞めて好きなことでガッツリ稼いでいくぞ、という思い切りのいい人でないと、「FIRE」に踏み切ると後悔するかもしれない。辞めるとしても、勤め先の退職金制度を調べ、ちょっと待てば1000万円は非課税でもらえそうだというタイミングで辞めたいものだ。

 また、「FIRE」の実現でネックになるのは生活費だ。計算上の生活費をいくらに設定するかだが、老後に入ると現役時代にはなかったお金として、介護費用が徐々に重くなってくる。将来介護施設に入居することも考えると、生活費とは別に数百万単位のまとまったお金は必要になる。だからこそ、退職金のようなまとまったお金を甘く見てはいけない。

早期に退職するために準備したこととは

 経済的自立はさておき、筆者も定年を待たずに会社を辞めた一人だ。特別豊かではないが、したい仕事を自分で選び、それで収入を得ているので、まあまあ「精神的な自由」は確保している。一例として、自分が会社を辞める前に準備したことを参考までに書いておこう。

 まずは、年収の設定だ。いくらあれば生活できるかを決め、それをどう確保するかだが、筆者の場合は「まずは年収300万円」とした。そのため、無収入だった場合に備えて会社員のうちに毎月10万円を貯蓄した。ボーナスからの貯蓄も含めると2年ほどで300万円に到達したので、その準備は終了。

 いよいよ会社を辞めようとなり、次はまさにFIRE的な選択をした。仕事による収入と金融資産の運用で、トータルで300万円の収入を目指そうと考えたのだ。事業収入が200万円、残り100万円は年利3~4%を目指して運用する。それはあくまで生活費なので、小遣いに使うお金は株式投資で稼ぐ。とはいっても、さほど消費をしないので、個別銘柄で3万円程度の利益が出れば売る、というささやかなものだが。

 ふたを開けてみると、おかげさまで仕事のみの収入でまずます「自由」にやれており、資産運用による収益に頼ることはない。仕事の大波も小波もコロナ波も受け、先が見通せないことに変わりはないが、今のところなんとかやっていけている。

 もともと自分が会社を辞めようと考えたのは、会社勤めから解放されたかったというより、なるべく長く働き続けたかったからだ。しかし、年齢が上がると、どうしても現場を離れ管理職に就くことになる。そのまま定年を迎えて、そのあと改めて現場の仕事ができるだろうか、と不安になったのが早期退職の理由だった。

 しかし、辞めて気づくこともある。退職金はともかく、「あのまま会社員でいたほうが年金は多くもらえた」のは確かだ。経済的自立という以上、やはりお金は大事である。それは今の暮らしだけではなく、一生続く。FIREは欧米の概念のため、企業に長く属することの日本的なベネフィットは想定されていない。早期リタイアを目指す人は、あらゆる方向から計算を尽くしてほしいと願う。

(文=松崎のり子/消費経済ジャーナリスト)

●松崎のり子(まつざき・のりこ)
消費経済ジャーナリスト。生活情報誌等の雑誌編集者として20年以上、マネー記事を担当。「貯め上手な人」「貯められない人」の家計とライフスタイルを取材・分析した経験から、貯蓄成功のポイントは貯め方よりお金の使い方にあるとの視点で、貯蓄・節約アドバイスを行う。また、節約愛好家「激★やす子」のペンネームでも活躍中。著書に『お金の常識が変わる 貯まる技術』(総合法令出版)。Facebookページ「消費経済リサーチルーム