テレワークについて聞いたアンケート調査を見るにつけ、働く側からは「(テレワークの働き方を)続けたい」という声が多いようだ。それほど会社に行くのはしんどいもので、自由がないと感じるのかもしれない。
さらに、若い層を中心に「FIRE」(Financial Independence, Retire Early)というキーワードがブームになっている。直訳すると「経済的自立と早期リタイア」となり、平たく言えば「会社を辞めても困らないだけの資産を早々に確保して、働かなくてもいい人生を送るぞー」というところだ。
言葉自体は欧米からの輸入だが、この考え方は日本にも昔からあった。不動産投資で不労所得を稼ぐというのがまさにそれ。今回のFIREは不動産に限らず、まずは年間支出の25倍の資産を確保し、それを年利4%で運用し続ければ、資産を目減りさせることなく運用益だけで生活費分を賄えるとしている。
「FIRE」が若い層に人気、と書いたのは、年間支出の25倍の資産をつくるにはどうしても時間が必要になるからだ。子どもの教育費がピークに差し掛かる40代50代から始めても、実現するにはかなりハードルが高い。20代からコツコツ資産形成を始めることが大事で、つまりは金融機関にとってもありがたいキーワードなのだろう。
前置きが長くなったが、あまり会社に行きたくないと感じるのは人の常だ。しかし、「FIRE」には表面からは見えない問題もある。するしないにかかわらず、注意点も知っておくべきだろう。
日本企業の賃金システムは、若いうちは安く抑え、年齢とともに上がっていく。会社の規定にもよるが、多くの場合、年齢が上がれば月収も増える。月収が上がれば、それにつれて健康保険・厚生年金・介護保険料といった社会保険料もアップするわけだが、注目したいのは年金だ。
公的年金は10年以上加入すれば受給資格があるが、支給額がおおむね一定の国民年金とは違い、厚生年金は納めた保険料により受取額が変わる。現役時代に月収が高く、たくさん保険料を納めた人は、将来受け取れる厚生年金も多くなる。60歳まで(今はそれ以上働く人もいるが)会社員を勤め上げれば、そのぶん将来の年金もたくさん受け取れるといっていい。
しかし、経済的自立を果たして早期リタイアするとどうなるのか。もし、40代で会社員を辞め、その後は悠々自適で暮らすとする。リタイア後の年金は厚生年金ではなく国民年金の保険料を払うことになるわけだが、先ほども言ったように、これには上乗せはない。いくら早い時期に資産形成を終え、経済的自立を果たしたとはいえ、将来受け取れる公的年金がさほど多くないとすると、老後が不安になる可能性もある。
公的年金なんてどうせもらえない、と信じる人は潔く構えてもいいが、老後の収入の柱はなんといっても年金だ。生きている限り受け取れるわけだから、金額は少ないより多い方がいい。また、公的年金のありがたいところは、自分の預金通帳とは違って残高を心配しなくてもいい点だ。制度が持続する限り淡々と払い続けてくれるし、来月で突如打ち切りなんてことはない。その金額を増やすか減らすかは、現役時代に会社員として払ってきた厚生年金保険料次第だ。
会社員を辞めたいという気持ちはわかるし、事情も人それぞれだろう。ただし、受け取れる公的年金の金額が予想よりも減る可能性があることは知っておきたい。
退職金は、一般的に勤続年数に連動しているものだ。長く働けば働くほど増えるし、基本給が上がっていけば、それに応じて金額も変化する。少し古いデータになるが、大卒で35年以上勤めて定年退職した場合の退職一時金の平均が1897万円(管理・事務・技術職。厚生労働省「平成30年 就労条件総合調査」より)という。「FIRE」を実現したことで、定年よりはるか前に退職してしまうと、退職金も思ったほどはもらえないだろう。