キリン「一番搾り」、なぜ嵐のCMやめ売上拡大?巧妙なマーケティング戦略の成功

 布施社長は生前、「ホームタップ事業は年末までに10万件の計画に向けて順調だ。縮小が続く国内市場を活性化していきたい」と語っていた。日本マクドナルドホールディングスや日本KFCホールディングスが、マーケティングのプロを招いて再生を果たしたが、キリンもまたしかり。山形氏が再生の立役者といっても過言ではない。

 ただ、経営トップとマーケッターは信頼で結ばれ、初めて成り立つのも事実だ。布施社長が急逝した今、山形氏の去就に注目が集まる。

ミャンマー事業で特損214億円を計上

 ビール系飲料で国内シェア1位を奪還したキリンだが、海外事業でアサヒと明暗が分かれた。アサヒグループホールディングス(GHD)の21年12月期の純利益(国際会計基準)は前期比68%増の1560億円を見込み、従来予想から40億円引き上げた。20年6月に買収した豪ビール最大手カールトン&ユナイテッドブリュワーズ(CUB)の販売が伸びた。

 一方、キリンHDの21年12月期の純利益(国際会計基準)は前期比20%増の865億円を予想、165億円下方修正した。ミャンマー事業が重荷なのだ。キリンは過半を出資する形で国軍系企業ミャンマー・エコノミック・ホールディングスとビールの合弁会社を運営している。

 2月の国軍によるクーデター後、ビールは不買運動の標的となった。混乱収束が見通せず、合弁会社ののれん代の減損損失214億円を21年1~6月に計上したことが利益を押し下げた。磯崎社長は「合弁解消の交渉を続け、損失を埋めるために、あらゆる手立てを考えている」と述べたが、交渉は進展していない。

 ミャンマー事業が重しとなりキリンの株価は伸びない。8月17日、1915円と年初来安値をつけた。1月4日の2429円の年初来高値から21%の下落である。10月15日の終値は2065.5円(3円安)だった。

 夏場からの気温低下や緊急事態宣言の延長で、9月の国内ビール市場は落ち込んだ。販売数量ベースでキリンは前年同月比20%減。アサヒは売上金額ベースで15%減。酒類改正前の駆け込み需要があった前年の反動もあり、ビール4社は軒並み2ケタのマイナス成長となった。

 布施社長の不在でぽっかり空いた穴の大きさを再確認することになりそうだ。

(文=編集部)