巣ごもり需要の拡大により、ゲーム業界は空前の盛り上がりを見せている。2021年7月に発表された角川アスキー総合研究所の調査によると、20年における日本国内のゲームコンテンツ市場は史上初の20兆円を突破。なかでも、インターネットを経由して複数の人が対戦や交流を楽しむオンラインゲームは、前年に比べ売り上げが倍増しているという。
オンラインゲームのユーザー数が増える一方、一部の利用者がプログラムを不正に改ざんし、ゲームを有利に進める「チート」と呼ばれる犯罪行為も急増しており、警視庁が積極的に対策に乗り出すなど、社会問題となっている。
ネット上の著作権侵害やサイバー犯罪に詳しい弁護士の中島博之氏(弁護士法人東京フレックス法律事務所)に、チート行為の種類や罪状、被害に遭ったときの対処法を聞いた。
日本語で「騙す」、あるいは「欺く」と直訳される英単語「cheat」に由来する「チート」。ゲームデータを改変することで、メーカー側が意図しない動作を人為的に引き起こし、不正な方法で手持ちのキャラクターを強化したり、違法な手段で対戦相手を攻撃する行為を指す。
不特定多数のユーザーが一堂に会してリアルタイムで対戦できるのが魅力のオンラインゲームだが、ひとたびチート行為が行われるとゲーム内の秩序は崩壊し、まっとうな参加者たちは正常なプレイが阻害され、ゲームを楽しむことが困難となる。
「チート行為自体の歴史は古く、まだインターネットのなかった、ファミリーコンピュータなどの8ビット機の時代から『プロアクションリプレイ』などのゲームデータを改ざんするツールが出回り(これらツールは不正競争防止法が改正されるまではグレーゾーンでした)、一部のユーザーの間で使用されていました。プロアクションリプレイは改ざんツールとはいえ、スタンドアローン(単独での動作)な環境なので、ほかのユーザーに迷惑をかける心配はありません。しかし、オンラインゲームにおけるチート行為はほかの利用者に悪影響を及ぼし、ゲームの売り上げにも直結するため、メーカー側に致命的な損害を与える悪質な犯罪として認知されるようになりました」(中島氏)
現在、チート行為が蔓延しているのは、FPS(1人称視点のシューティングゲーム)やTPS(3人称視点のシューティングゲーム)といった対戦型のオンラインゲームが多いです。中島氏によると、ユーザー数の多いコンテンツが狙われやすく、具体的には「フォートナイト」「Apex Legends(エーペックスレジェンズ)などのタイトルが挙げられるという。では、チートにはどのような種類があるのだろうか。
「代表的なのは、自動的に相手の頭に照準を合わせる“オートエイム”。狙いを定めなくても撃つだけで相手に命中する仕様のため、実装すれば遠距離の撃ち合いだとほぼ負けることはありません。ほかにも、壁越しに相手の様子が透けて見る“ウォールハック”や、通常の何倍ものスピードで高速移動するチート行為もポピュラーです。とりわけ悪質なのが、プレイ開始と同時に対戦相手のハードウェアを強制的にシャットダウンさせる手口です。これは、ここ1、2年で被害を訴える人が急増しており、対策が急がれています」(同)
オンラインゲームの普及に伴い、犯罪行為として摘発の対象となったチート。日本国内における最初の摘発事例は14年に遡る。対戦型シューティングゲーム「サドンアタック」にて、前述の「ウォールハック」や対戦相手の頭部を巨大化させる「ビッグヘッド」、上空から相手を攻撃する「空中浮遊」といったチートツールの使用および販売によって、未成年(当時)の男性3人が書類送検された。