「このときは、他人のコンピュータや、その中に入っているデータを損壊したり、不正の指令を与えて業務を妨害する罪である『電子計算機損壊等業務妨害』が適用されました。ほかにも、チート行為やツールの販売に対しては、不正につくられたデータを他人の事務処理を誤らせる目的で使用、供用した者に適用される『私電磁的記録不正作出罪・同供用罪』や『著作権侵害』などの罪状で告発が可能です」(同)
「電子計算機損壊等業務妨害」の罪に問われた場合、5年以下の懲役または100万円以下の罰金を払う必要があり、「私電磁的記録不正作出罪・同供用罪」では5年以下の懲役または50万円以下の罰金、「著作権侵害」は10年以下の懲役または1000万円以下の罰金が科せられる。
いずれの罪状もゲーム内のチート犯罪を取り締まるために設けられたものではなく、以前より、企業が有するデータサーバへのサイバー攻撃やクレジットカードの不正利用に対して適用されていたもの。ゲーム人口の増加によってチート行為の発生率は右肩上がりの傾向にあるが、今後も上記を筆頭とした既存の罪状で取り締まっていくというのが、国の基本的な方針だ。
不正な方法でゲームを有利に進めること自体が犯罪とされているのだが、コロナ禍以降はチートツールの販売を建前にした詐欺被害も増加中だという。
「最近増えているのは、詐欺師が任意のユーザーに『アカウントを教えてくれたら、キャラクターを無敵に改造できるツールをダウンロードしてあげるよ』などとけしかけてIDとパスワードを入手、ログインした後にアカウントを変えて、そのまま乗っ取ってしまうパターン。アカウント乗っ取り後に、被害者が保有していたアイテムを転売してお金に換えるケースもあります。また、有名なバトルロワイアルゲームでは、前述の手口でアカウントを奪われた高校生が同じ要領で別の人物のアカウントを乗っ取るという、負の連鎖も見られます。被害者は若年層が多く、悪知恵のある大人に子どもが騙される、といった構図が鮮明化しています」(同)
コロナ禍で急増中のチート犯罪。プレイ中に対戦相手の不正行為に気がついた場合、どのような対応を取るのが正解なのだろうか。
「チート行為に気づいた時点で、問題のユーザーのIDを控えておき、メーカーに報告してください。ゲーム会社が管理しているサーバにはすべてのユーザー情報が記録されているので、不正行為を行っていた場合、調べればわかります。ただし、オートエイムなどの場合は、相手がチートツールを使っているのか、単にプレイが上手なのかを見極めるのは極めて困難です。よく、オンラインゲームで強すぎるプレイヤーに負けたときに『これ絶対チートだろ』と捨て台詞を吐くことがありますが、その判定は運営側でも難しいようです」(同)
チートユーザーを突き止めたとしても、刑事事件に発展することによる風評被害でゲームのイメージが悪化するのを恐れ、「違反者のアカウントをBAN(使用禁止)するだけで、告訴に踏み切るメーカーは多くない」と中島氏は語る。
アカウントをいくら使用禁止にしても新しく作成するのは容易であり、チートユーザーが何度も繰り返し不正を働くのは目に見えている。抜本的な解決方法は、残念ながら見つかっていないのだ。
「『Apex Legends』では、チートツールの使用を検知してチートユーザー同士を集めて戦わせることで、一般利用者に被害がおよばないようにするといった、ユニークな対策を講じていると言われています。一方、仕掛ける側はメーカーに検知されないようにチートツールを改良する動きを強めており、イタチごっことなっています。個人的に、現状を変えるためにはチートユーザーを野放しにせず、運営側が積極的に摘発や告訴をして、その結果を逐一広めることで、抑止につなげることができるのではと思っています」(同)
被害件数の数に比べると、検挙事例は驚くほど少ないチート犯罪。根絶するためには、メーカー側が本腰を入れて摘発に乗り出す必要があるようだ。
(文=清談社)