コロナ敗戦にモデルナワクチン異物混入が追い討ちをかけた――。厚生労働省は8月26日、新型コロナウイルス感染症の米モデルナ製ワクチンについて、5都県8カ所の接種会場から計39本の未使用バイアル(注射瓶)に異物が混入しているとの報告があったとし、異物混入の恐れがある約16万3000本(約163万回分)の使用を見合わせると発表した。
異物混入が確認されたのは東京、埼玉、愛知、茨城、岐阜の5都県での職域接種と自治体接種の計8会場。8月16日以降、使用前の確認で計39本から異物の混入が確認され、国内供給元の武田薬品工業に報告があった。武田薬品は件数が比較的多かったことから8月25日に厚労省に報告した。
異物が確認されたバイアルは回収され、モデルナが調査を進める。日本向けはスペインのロビ社が製造している。3ロット、計16万3000本について厚労省が武田薬品と協議し、当面の安全対策として使用の見合わせを決めた。
モデルナワクチンの異物混入は、その後、広がりを見せた。沖縄と群馬でも異物の混入が確認された。厚労省は8月28日、使用中止を求めた米モデルナ製ワクチンを接種した38歳と30歳の男性2人が死亡したことを明らかにした。2人はいずれも、異物が見つかったものと同じスペインの工場で同じ工程でつくられたワクチンを2回目に接種したという。
38歳の男性は8月15日に接種し、翌日に38.5度の発熱があった。17日に下熱したが、18日に自宅で死亡が確認された。30歳の男性は8月22日に接種し、翌日は発熱で仕事を休んだ。回復した24日は出勤し、帰宅後に就寝。25日朝に死亡が確認された。接種と死亡の因果関係は不明で、今後、有識者検討会で評価する。
武田薬品は近日中に検査結果を公表するとしている。接種と死亡の因果関係があるのかが最大の注目点だ。もし、因果関係ありと認定されれば、モデルナワクチン接種の是非に発展することは必至の情勢である。
モデルナ製ワクチンは武田薬品が治験や申請、流通を担う。今年5月に承認され、国の大規模接種会場や企業の職域接種向けに供給されている。9月末までに計5000万回分の供給を予定していた。
厚労省は7月、2022年初めにも米モデルナと武田薬品から新型コロナワクチン5000万回分の追加供給を受ける契約を結んだ。追加契約で日本への供給量は計1億回分となる。モデルナは3回目の追加接種(ブースター接種)用や変異株ウイルスに対応したワクチンを開発中で、承認されれば国内でも、このワクチンの供給も受けることになる。
武田薬品はモデルナのワクチンを輸入して供給するほか、米製薬会社ノババックスのワクチンを山口県にある武田薬品の工場で製造して国内向けに販売する計画だ。初期対応はモデルナ社のワクチン、中長期的対応はノババックス社のワクチンとの棲み分けをする。
ノババックスのワクチンは国内で生産できるため、「国内需要に合わせて生産・供給できるのがいちばんの有用性だ」と述べている。2つのワクチンを扱うことで、将来的なワクチンの自主開発につなげる。これが、出遅れていた武田薬品のワクチン戦略だった。ところが、スタートを切った直後に、モデルナワクチンの異物混入の問題が発生した。武田薬品のワクチン戦略に暗い影を落とした。
武田薬品の21年4~6月期連結決算(国際会計基準)は売上高に当たる売上収益が前年同期比18%増の9496億円、営業利益は49%増の2485億円、純利益は67%増の1376億円だった。帝人に糖尿病薬事業を売却した利益を計上したほか、潰瘍性大腸炎などの治療薬、神経精神疾患用の薬が伸びた。クリストフ・ウェバー社長は「4~6月期の業績は素晴らしい伸びだった」と自画自賛した。