武田薬品、日本最大の買収は失敗だったのか?シャイアー関連で巨額赤字、黒字化メド立たず

 22年3月期の業績予想は据え置いた。売上収益は前期比5%増の3兆3700億円、営業利益は4%減の4880億円、純利益は34%減の2500億円の見込みだ。「アリナミン」など一般用医薬品を扱う完全子会社、武田コンシューマーヘルスケアを21年3月31日付で米投資ファンド大手ブラックストーン・グループに2300億円で売却した。現在、社名はアリナミン製薬になっている。この売却益がなくなるため22年3月期は減益になる。

 シャイアー関連で税務費用630億円を計上する。シャイアーが米アッヴィから受け取った違約金への課税分やその未払い利息で、7月30日に発表した21年4~6月期の連結財務諸表を修正した。純利益は2003億円から1376億円に引き下げた。

 最大の懸念材料は19年1月、買収が完了したアイルランド製薬大手シャイアーだ。買収額(9兆円、負債2兆円を含む)は日本のM&A史上最大だった。武田はシャイアーの統合効果を出せずに苦戦が続いている。連結決算の営業損益に占めるシャイアー関連は19年3月期が2339億円の赤字。20年3月期が6783億円の赤字、21年3月期は4198億円の赤字と水面下に沈んだままだ。いつシャイアー事業が黒字に転換し、収益に貢献するかが問われている。

 21年4~6月期は好決算にもかかわらず、株価は冴えない。シャイアー買収前の2018年初頭に6000円台を付けていた株価は買収発表後から急落。好決算を発表後も株価は4000円を割り込んだまま。今年の高値は3月22日につけた4365円で8月30日の終値は3665円だった。9月17日は3813円で終わった。株式市場は「シャイアーの巨額買収が成功だったのか」確信を持てずにいる。

 4~6月期決算発表の席上、コスタ・サルウコスCFO(最高財務責任者)は「海外では新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、病院で診療を再開する動きが出ている」とした。受診抑制の“くびき”から脱け出せそうだ。国内では「輸入するモデルナ製ワクチンの販売拡大」に期待を滲ませた。

モデルナワクチンの異物混入で厚労省が口頭で指導

 そのモデルナワクチンが厳しい局面に立たされている。厚生労働省が国内の流通を担う武田薬品に対し、医薬品医療機器法(薬機法)に違反するとして、品質管理を徹底するよう口頭で指導した。口頭指導は9月3日付。厚労省が武田薬品、モデルナとオンラインで会議を開き、工場の管理監督などを徹底させるよう武田薬品に指示した。

 異物が確認された製品はいずれもスペインの工場で製造されていた。製造ラインで部品が不適切に設置されていたのが原因とみられる。武田薬品は「(口頭指導を)重く受け止めている。モデルナのスペイン委託生産企業と協力し、製造ラインを監督する」とした。

 武田は9月1日、異物はステンレスとの調査結果を明らかにしている。異物が見つかったものを含む計3ロット、162万回分が回収対象となったが、50万回分はすでに接種済みだという。

(文=編集部)