「ゼロ金利下なら財政再建は不要」は正しいのか?財政再建目標をPB黒字化に変更した弊害

「ゼロ金利下なら財政再建は不要」は正しいのか?財政再建目標をPB黒字化に変更した弊害の画像1
財務省(「gettyimages」より)

 デルタ株による感染拡大でコロナ禍が継続し、財政赤字が一層拡大するなか、それが今後の財政やマクロ経済に及ぼす影響も気になるのが当然だろう。しかしながら、日銀による大規模な金融政策は継続しており、長期金利が概ねゼロ近傍で推移している。このため、巨額の国債残高を抱えていても、国債の利払い費を抑制できており、財政規律に対する認識は弱まっている。

 その関係で整理が必要なのは、金利と成長率の大小関係に関する論争である。財政の持続可能性を評価する場合、国債残高を含む政府債務が経済規模の何倍なのかという、「債務(対GDP)」の推移で検証するのが一般的である。

 分母のGDPは「経済成長率」(名目GDP成長率)で拡大する一方、分子の債務は「金利」で膨張する。このため、債務(対GDP)の先行きを支配する大きな要因は、金利と成長率の大小関係である。

 まず、「金利>成長率」ならば、債務(対GDP)は時間の経過に伴って増加していくため、財政赤字の削減が必要であり、一定の財政再建が求められる。また、「金利<成長率」ならば、債務(対GDP)は時間の経過に伴って縮小していくため、財政再建が不要になる可能性がある。

 この2ケースのうち、現在は長期金利が概ねゼロ近傍で推移し、わずかだが一定の正の成長率は存在しているため、「金利<成長率」のケースに該当し、財政再建が不要になるという認識がネットで広がっているが、これは間違いである。

 このような誤った認識が広がった背景としては、2000年代から、従来の目標であった財政赤字の縮小に代わり、国と地方を合わせた基礎的財政収支(PB)の黒字化を財政再建の目標にしてしまったことが大きく影響しているように思われる。

 PB黒字化の目標が急速に普及したのは、財政赤字の縮小よりもPB赤字の縮小のほうが財政再建に向けた努力が若干楽なためである。一般的に「財政赤字=PB赤字+債務の利払い費」のため、金利コスト分(債務の利払い費)だけ、PB赤字のほうが財政赤字よりも小さい。このため、よりハードルが高い財政赤字の縮減は財政再建に向けた次の段階の目標とし、PB黒字化という目標を定め、まずはPB均衡を目指せばいいという議論が高まったわけである。

ドーマーの命題

 この議論は確かに正しいが、PB赤字が残る段階では、「金利<成長率」のケースでも財政破綻する可能性が存在する。

 今期末の債務は今期の財政赤字と前期末の債務の合計に一致するが、経済成長すれば財政赤字も債務もGDP比で成長分だけ縮小するため、GDP比では、「今期末の債務(対GDP)=<今期の財政赤字(対GDP)+前期末の債務(対GDP)>÷(1+成長率)」(※)という関係が成立する。この式に「財政赤字=PB赤字+債務の利払い費」という関係を代入して、一定の近似を施すと、「債務(対GDP)の増加=PB赤字(対GDP)+(金利-成長率)×前期末の債務(対GDP)」(※※)という関係式が成立する。

 この関係式(※※)で、PBが均衡し、「金利<成長率」ならば、債務(対GDP)の増加はマイナスの値になるので、債務(対GDP)は縮小する。しかしながら、PB赤字が「(成長率―金利)×前期末の債務(対GDP)」よりも大きい場合は、債務(対GDP)の増加はプラスの値になり、このような状況が継続すれば財政が破綻する可能性がある。

 冷静に考えれば、「金利<成長率」でも、一定のPB赤字が存在すれば、債務(対GDP)が時間の経過で雪だるま式に増加してしまう可能性があるのは直感的にも自然であろう。

 しかしながら、「現在は『金利<成長率』のケースに該当し、財政再建が不要になる」という誤った認識が広がってしまった原因は、財政再建の目標をPBに変更し、金利と成長率の大小関係で、財政の持続可能性を議論するようになってしまったためである。