株主総会の質疑では下落傾向が顕著な株価や株主還元に関する質問が相次いだ。SBG株は3月16日に1万695円の年初来高値をつけた。21年3月期の連結純利益は過去最高だったが、今期に入り投資先の企業の株価が冴えないことがSBGの株価にも影響している。過去最高の純利益を発表して以降、時価総額が10兆円も目減りした。
「短期と中・長期の株価対策、今後の業績見通しを教えてほしい」という質問が投資家から次々と投げかけられた。これに対し、孫氏は「(株価は)短期的には上がったり下がったりするが長期的な視点で見てほしい」と答えた。
株主総会の終盤では、2019年末で社外取締役を退任したファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏について言及した。「事業家としては好きだけど投資家としては好きじゃないと言われたのが柳井正氏からだった」ことを明かした上で、「投資家としては好きじゃないというのは、柳井氏の本音かもしれない」と率直に認めた。
最後に「60代で引き継ぐ」との考えを示していた後継者問題について、80歳を超えた今も投資家として現役バリバリのウォーレン・バフェット氏を例示しつつ、「69歳を過ぎても社長をやっているかもしれないし、会長として経営に関わるかもしれない。後継者選びは最重要な仕事の一つだ」と“生涯現役”と受け止められるような発言をし、注目された。
「豆腐屋のように1丁(1兆円)、2丁(2兆円)と数えられるようになる」というのが孫氏が創業当時に語った夢だが、この夢は“正夢”となった。それでも、「SBGの高収益はアップルに代表される米国の巨大IT企業とは全く性格を異にする」(証券会社アナリスト)という声もある。投資頼みで地に足がついた企業活動による利益ではないというシビアな見方も多い。SBGの高収益は「砂上の楼閣」と評するアナリストもいるが、投資先次第で業績に大きなブレが生じることは避けられない。
シェアオフィス「ウィーワーク」を運営する米ウィーカンパニーの巨額投資に失敗したことは記憶に新しい。SBGはウィーワーク株の売却に踏み切った。最近でも、英金融サービス企業のグリーンシル・キャピタルが経営破綻し、「SBGにどれだけ損失が出るのか」と懸念する声もある。
SVF2号ファンドの投資社数が急増している。1号ファンドと比較すると1件当たりの投資金額は少なくなっている。ウィーワークの経営危機が取り沙汰された折には追加支援の決断を迫られたが、今後、投資した案件の業績が悪化しても救済融資はしないことを基本方針とした。それでもスタートアップ企業に対する投資では「経営破綻」の4文字がつきまとう。
SBGはSVFを通じ、米株式市場に上場を目指す中国の新興企業に数多く出資している。IT大手のアリババ集団は大成功し、滴滴など4社が米国市場に上場し、SBGは巨額の上場益を手にした。しかし、“ポスト・コロナ”の市場環境は流動的だ。
SBGは8月10日、21年4~6月期連結決算(国際会計基準)を発表したが、最終利益は前年同期比39.4%減の7615億円だった。前年同期は米国携帯大手TモバイルUSの売却が4000億円以上、利益を押し上げた反動が出た。主力の投資ファンド事業も伸び悩んだ。SVFによる投資利益は2.9%減の2878億円だった。
8月10日に記者会見した孫会長は、中国IT大手について「将来性に懸念は抱いていないが、今は受難の時。当面は用心深くいきたい」と説明した。中国企業への出資割合を、4月以降は全体の1割ほどに引き下げている。
それでもSBG全体の保有資産に占める割合はアリババ集団が約4割に上るなど、依然として中国企業の比重は大きい。売上高は同15.6%増の1兆4791億円だった。法人向け携帯電話事業が伸び、LINEを子会社にしたことも寄与した。
投資会社の性格を強めており、「SBGの業績は、今後も中国政府の動向に左右される展開が続く」と見る市場関係者が多い。これが株価の上値を重くしている。
(文=編集部)