「ソフトバンクGの巨額利益はアップルとは全く性格が異なる」…連日の株価下落、隠れ中国リスクも

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ソフトバンクグループのHPより

 中国配車アプリ最大手の滴滴出行(ディディ)は6月30日、米ニューヨーク証券取引所に新規上場した。終値で計算した時価総額は670億ドル(7兆3700億円)を超えたが、当初想定された1000億ドル(11兆円)には届かなかった。

 滴滴出行のNY市場からの調達額は44億ドル(4840億円)。中国企業による米国での単独株式公開時の調達額としては2014年のアリババ集団の250億ドル(2兆7500億円)に次ぐ規模となった。滴滴の筆頭株主はソフトバンクグループ(SBG)傘下のソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)で2割を握る。

 SBGの孫正義会長兼社長は6月23日に開催した定時株主総会で、世界のIT各社へ相次ぎ出資している現在の経営姿勢を「情報革命の資本家である」と定義した。「21世紀で発明家に相当するのは(米アップル創業者の)スティーブ・ジョブスなどの起業家だ。ソフトバンクは人工知能(AI)を駆使した情報革命の資本家になる」と自らを展望した。

「投資先の約260社は、ほとんどがまだ利益を出していないが、リスクをとって大きな資本を提供しているという自負がある」と強調した。最近の孫氏には「事業家から投資家に変節した」との声がつきまとうが、「投資家と資本家は似て非なるものだ」「投資家が目指す正義はお金をつくること」としたうえで、「最も大切な物差しは未来を創ることだ」と語った。

 だが、逆風が吹き付ける。滴滴については、NY証券取引所に上場した直後の7月2日、中国サイバースペース管理局(CAC)が「国家安全法」とネット空間の統制を強化する「インターネット安全(サイバーセキュリティー)法」に基づき調査を開始した。「CACは、滴滴が上場する数週間前にIPOの延期を提案し、ネットワークの安全性を調査するよう求めていた。上場を強行したことで、手ひどいしっぺ返しを食らった」(在北京の大手商社の幹部)との見方が浮上している。

 CACは7月4日、違法な利用者情報収集を理由に滴滴のアプリ配信停止を命じた。さらに同月10日、サイバーセキュリティー審査弁法の改定案に「100万人超の個人情報を持つ企業が海外で上場する際には、必ず中国国家インターネット弁公室のセキュリティ審査を受けなければならない」との条文を新設した。

 7月16日には滴滴に対して立ち入り調査に乗り出した。国家インターネット情報弁公室、公安省、国家安全省、自然資源省、交通運輸省、国家税務総局、独占禁止法などを管轄する国家市場監督管理総局の合計7部門が共同で立ち入り調査を行った。国を挙げて、滴滴の摘発に踏み切ったのである。

 米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(7月5日付)によると、「CACなど中国当局は、米上場に伴う情報開示の拡大により、滴滴が持つ膨大なデータが外国に流出する可能性を警戒していた」という。

 中国当局のネット企業への締め付けは、SBGの業績に影響を与えることになる。傘下のSVFを通じ、滴滴やトラック配車アプリを運営する満幇集団をはじめ、成長の期待が高い中国企業に巨額の投資をしてきたからだ。今後、SBGのファンドの投資先の上場の手段が限定され、資金を回収しにくくなる恐れが出てきた。

 2020年末時点で第1号ファンドの投資先のうち、中国を含むアジアは4割を占めている。SBGは今後、中国以外の投資を増やすなど、戦略の見直しを迫られることになる。

孫氏と株主の認識に大きな溝

 SBGの株価は連日、年初来安値を更新。7月28日には終値としては20年11月以来の7000円大台割れとなり、一時、6706円まで下げた。さすがに7月29日の終値は275円高の7020円と反発したが、株価の下降トレンドが見えてきた。