新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う懇親会や外食の自粛で食べる機会が減った食材の中に、魚がある方も多いのではないでしょうか。居酒屋のメイン料理として出てくる、大きな舟盛り。最後に見たのはコロナ禍前のこと、というビジネスパーソンも多いことかと思います。
魚の旬は一般に冬場と思われていますが、8月もサンマ、アジ、イワシなど旬の魚が多くあります。特に青魚と呼ばれる魚が多いことも、夏の魚の楽しみです。青魚は、海面の表層を群れをなして泳いでいることが多い魚です。背中が青く腹側が白いのは、上空の鳥からは海の色に溶け込み、深層の捕食魚からは太陽光の乱反射に紛れるように保護色が進化した結果です。
栄養的観点では、エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などの不飽和脂肪酸の比率が高いことが特徴で、血中の悪玉コレステロールを減少させるなどの効果があります。一方で、これらの脂肪が劣化し、油焼けを起こしやすく、さらに豊富に含まれる栄養素のヒスチジンが分解しやすいため腐敗しやすい、いわゆる足が速い魚でもあります。
前述の通り、青魚には悪玉コレステロールを減らす効果があるとされていますが、最近の複数の研究で認知症リスクを下げる作用があることがわかってきています。
国立がん研究センターが行った、一般的な日本人を対象として行われた15年におよぶ追跡調査から、魚介類の摂取量が多い人は認知症を発症するリスクが低いことが示唆されました。
実は、魚介類と認知症予防の関係についてのこれまでの報告は、否定的なものがほとんどでした。しかし、それらの多くは欧米人を対象とした研究であることから、魚介類以外の食生活や生活習慣が影響しているのではないかという点に研究者らは着目し、日本人に限定し、しかも徐々に進行する認知症への影響を明らかにするには長期間の追跡が必要と考えて調査を行ったものです。
その結果、調査対象となった1127人のうち、調査の終了時点で380人が軽度認知障害、54人が認知症と診断され、統計的解析によって、認知症と診断された人々は相対的に魚介類の摂取量が少ないことが明らかになりました。
不飽和脂肪酸の摂取量と認知症リスクは相関関係があり、DHA、EPA、ドコサペンタエン酸(DPA)の3つの魚油成分は、特に高い相関が得られました。なお、この調査において、魚介類を最も多く取っていた集団では、毎日平均82グラムを摂取していました。これは、刺身約8切れに相当します。
さらに、英国のキングス・カレッジ・ロンドンの研究者らは、魚油サプリメントがうつ病に有効であるとする報告を行いました。魚油サプリメントはすでに、心臓を健康に保つ効果があるとする複数の報告がなされています。
この研究では、認知や記憶に重要な役割を持ち、うつ病などの精神疾患で活性が低下している海馬という脳部位の細胞を培養し、そこにEPAやDHAを加えて細胞を保護した上で炎症誘発物質を添加したところ、細胞の損傷が低減されることが明らかになったものです。
次に、台湾の大学病院で精神科外来に通院している、うつ病患者22人を対象として、EPAまたは、DHAを3週間摂取してもらう実験を行いました。その結果、EPA、DHAのいずれも摂取した人において、うつ病の指標に基づく診断結果は大幅に改善し、細胞での実験で確認されたEPAとDHAの代謝分解物が血液中に多い人ほど改善効果が高いという相関も見られました。代謝分解物が多いということは、EPAやDHAが体内に多く取り込まれていることを意味しています。