デルタ株の感染をはじめ新型コロナウイルスの感染が世界的に再拡大している。それに伴い、わたしたちの健康管理の重要性が一段と高まっている。特に、オンライン診療など、自宅に居ながらにして医療サービスを受ける体制整備は重要だ。
それは、ヘルスケア関連(血圧などの測定機器や、医療、医薬品などの製造や関連サービス)ビジネスの中長期的な成長期待を高める要因だ。その状況下で注目したい企業が、オムロンである。コロナ禍の発生によって、オムロンが生産する体温計をはじめヘルスケア機器への需要は高まった。それに加えて同社は海外で遠隔医療サービスの拡大を目指している。
現在、中国などアジア新興国や欧州でのファクトリー・オートメーション(FA)関連の制御装置需要を取り込み、オムロンの業績は回復している。それに加えて、海外でのヘルスケア関連事業の成長を加速させることは、同社の企業価値向上を支えるだろう。
近年、オムロンは米国や英国、アジア地域での遠隔医療ビジネスを強化している。遠隔医療の概念は、オンライン診療よりも広い。遠隔医療では、ビデオ通話システムを用いた診療や健康増進のための相談や医療行為の提供(医師から患者へ)に加えて、医師と放射線の専門医などが患者の画像診断データなどをやり取りして(医師から医師へ)、より良い治療が目指される。
オムロンが取り組んでいる遠隔医療の主な対象の一つが高血圧の分野だ。一般的に高血圧治療では、定期的に患者が通院し、対面診察時の血圧データなどを医師が確認し、治療方針が決められる。ただし、わたしたちの体調は常に変化する。それに加えて、高齢者にとって通院や治療薬の受け取りのために移動する負担は大きい。
遠隔医療のベネフィットは大きい。日常生活の中で測定した血圧などのバイタルデータを医師が手に入れることは、より良い治療の方針を決定することにつながる。患者は移動の負担からも解放される。その点に着目し、オムロンは家庭で血圧などを測定し、それを医師と患者が共有し、治療に役立てる機器やシステム開発を進めている。
具体的に米国でオムロン傘下のオムロンヘルスケアは、遠隔医療システムの「バイタルサイト」を販売している。イメージとしては、データ送信機能をもつ血圧計などを思い浮べるとよい。患者が血圧計や体重計を使用すると、データがネット上の電子カルテに送信される。そのデータは医師および医療従事者と共有され、患者の体調をより高頻度で確認することができる。また、血圧などが大きく変化すると、医師にアラートが届く。
遠隔医療への需要は、新型コロナウイルスの感染拡大によって一段と、かつ急速に高まっている。感染のリスクを避けつつ、わたしたちが必要な医療サービスを必要なタイミングで受けるために、オンライン診療、および遠隔医療は人々の安全と健康を守るために不可欠な社会インフラとしての性格を強めている。日本でオンライン診療が恒久化されたのは良い例だ。オムロンは海外でそうした需要の開拓を進め、新しい成長の柱に育てようとしている。
一つの着目点として、オムロンの遠隔医療技術は、予防医療の促進に貢献するだろう。予防医療とは、生活習慣の改善や予防接種の実施によって病気を未然に防ぐこと、定期健診などによって早期の病気発見と治療を目指すこと、病気になった時の症状の増悪の防止や再発防止を目指すことだ。
世界的に予防医療の重要性は高まっている。なぜなら、医療費が個人、企業、国の財政に与える影響が大きくなっているからだ。日本では少子化、高齢化の進展によって医療費が増大している。それは、財政悪化の主たる要因だ。人々の医療関連支出を抑えるには効果的な予防が欠かせない。それは、これまでに享受してきた医療サービス(既得権益)を失うという人々の不安心理に配慮し、医療関連の財政支出を抑制する方策の一つといえる。