そうした取り組みは、わが国がカーボンニュートラルを目指すために重要だ。2030年までにわが国は温室効果ガス排出量を46%削減し、2050年のカーボンニュートラルを目指している。日本企業にとって重要なことは、目先のコスト増加の可能性に対応しつつ、長期の目線で2050年のカーボンニュートラル実現がもたらすと考えられる収益獲得機会を手に入れることだ。
ミネベアミツミが進めるIoT技術の開発は、目先、日本企業などが脱炭素に取り組むサポート要因となる可能性がある。長めの目線で考えると、電力管理などのアナログ半導体と円滑な回転を支える技術、各種センサ技術を組み合わせることによって、ミネベアミツミがより効率的な再生可能エネルギーの利用を支えるインフラシステムを開発する展開も想定される。このように考えると、同社に期待される取り組みは、既存の機械や装置などのエネルギー消費性能の向上を支える技術を開発しつつ、中長期的には無線給電やより効率性の高い風力発電システムなどを開発する体制を整えることだろう。
集合図をイメージしながら考えると、足許の世界経済では半導体需要の高まりと、脱炭素という2つのメガトレンドが進んでいる。2023年頃まで世界経済の半導体の不足は続く可能性がある。脱炭素に関しては、主要国の政府、企業による取り組みが一段と加速するとみられる。ミネベアミツミは買収戦略を実行することによってアナログ半導体の生産能力の強化やIoT関連技術の取り込みなどを進め、2つのメガトレンドへの事業エクスポージャーをできるだけ大きくしようとしているとの印象を持つ。理論的に考えると、その戦略は中長期的な同社の成長に資するだろう。
今後、同社にとって重要性が増すと考えられることを一つ上げると、それは、研究開発体制の強化だろう。売上高に占める研究開発費の比率は業種によって異なる。例えば新薬開発にコストがかかる製薬業界の研究開発費対売上高比率は高い傾向にある。ミネベアミツミの研究開発費対売上高比率は2020年3月期が3.0%、2021年3月期が3.3%、今期予想は3.2%だ。中長期的な事業運営を考えた時、研究開発費がどう推移するかは、同社全体としてのイノベーション発揮に相応の影響を与える可能性がある。
スピードアップする世界経済の環境変化に対応しつつ成長を実現するために、買収戦略は必要だ。ただし、足許、世界的に株価が高値圏で推移しているため、買収のコストとリスクは軽視できない。
買収戦略を進めつつ、同社が新しい発想の実現によってさらなる成長を目指すためには、組織を一つにまとめて、組織全体としてのモノづくりの文化に磨きをかけることが必要だ。研究開発体制の強化はその重要な取り組みに位置付けられ、それに関する費用の推移は経営陣が組織一丸としてのモノづくりに関するコミットメントの表れと解釈できる。
言い換えれば、同社の経営陣に求められることは、買収のコストとリスクを抑えつつ、多様化する組織の利害を一つにまとめて、新しいモノを生み出そうとする経営風土を醸成することといえる。そうした取り組みが、世界的なシェアを持つベアリング事業に次ぐ新しい稼ぎ頭の育成につながり、事業ポートフォリオ全体での営業利益率の向上を支えるだろう。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)
●真壁昭夫/法政大学大学院教授
一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
『仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
『逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
『VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
『AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
『行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。