2月に「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングが、「ZARA」を運営するスペインのインディテックスを株価時価総額で上回り、アパレル企業としては世界1位となった。6月9日、インディテックスは2021年2~4月期決算で黒字転換したと発表。世界的に新型コロナウイルスのワクチン接種も進み、時価総額世界1位に返り咲いた。
ファストリは国内市場では一人勝ちとされ、海外アジア市場でも好調だが、業績の改善が進まないのがグローバルブランド事業部だ。2020年8月決算はコロナ禍の影響もあり、売上1096億円ながら127億円の赤字を計上している。グローバル展開を見すえた「セオリー」「コントワー・デ・コトニエ」「プリンセス・タム・タム」「J Brand」が含まれる。
この事業部では、まだ無名の「PLST(プラステ)」が運営されているが、実は国内で中価格帯を展開する知名度を持つアパレル企業群が、脅威を持って注視している。今回は、その理由を見ていきたい。
現在は、ファストリグループ内でラグジュアリーブランド「セオリー」を展開しているリンク・セオリー・ジャパン。PLSTは、その企業内ブランドから子会社として18年4月に独立。21年2月28日現在、国内にて97店舗を展開し売上規模は約200億円前後と推定される。
21年度の通期見通しでは、2020年度より続いた都心での店舗閉鎖やコロナ禍の影響で赤字が予測されている。ブランドの位置づけを河崎邦和社長は、「価格は百貨店ブランドの半分程度、商品価値はユニクロの2~3倍を意識している」と語る。アパレル業界内でのポジションとして「ユニクロ」「GU」との商品政策と出店戦略の大きな違いが際立つ。
伊勢丹新宿店向かいに位置する「PLST 新宿本店」は売場面積も小さく、大型店の出店実績はない。しかし大丸東京店、東武百貨店 池袋店、京王百貨店新宿店、神戸阪急などの百貨店への出店実績がある。本来ファストリはSPA(製造小売業)であり、収益性の低い百貨店との取引は積極的に行ってこなかった。しかし、「セオリー」より安い価格帯での百貨店展開は、同じフロアに婦人服、メンズ服を展開する他のアパレル企業にとっては脅威である。
現在「PLST」の販促は、メインのビッグブランドに比較すると非常に地味である。自社ネットメディア「PLST magazine」では、30~40代女性に大人気のスタイリスト、大草直子が着回しに関する連載記事が掲載されている。
では、なぜ他社は脅威を感じているのだろうか。
「PLST 新宿本店」から見えるファストリグループの他ブランドとの違いは、コストの違いからくる「顔」である。「顔」とは、アパレル業界では、商品自体の完成度の高さが見せる総合評価のことを指す。「ユニクロ」「GU」の製品にもっとも欠けるのが高級感だが、「PLST」は素材の良さからの高級感を加えた完成度の高さが格段に良い。
百貨店ブランドの商品と低価格商品を消費者が比較した際に感じるのが、素材の持つ質感の違いだ。服好きの消費者なら、「PLST」の商品の高級感と値頃感から、その価格競争力に驚くだろう。
現状は、店舗面積の狭さもあり、商品のSKU(受発注・在庫管理を行う際の最小の管理単位)は多くない。しかし、トレンドを適度に取り入れ、安っぽさを感じさせない完成度の高さは魅力的である。消費者はファストリのブランドであるという認識をせずに購入しているであろう。