米CNNは6月14日、「中国広東省の台山原子力発電所で放射性物資漏れが生じ、周辺地域の放射線漏量が高まっている恐れがあるとして、米国政府が調査している」と報じた。建設と運転を協力するフランスの原子炉製造会社「フラマトム」が、米国原子力規制委員会に技術協力を求めたという。事故が起きた台山原子力発電所は香港西部から130キロメートルの所に位置する。フラマトムの親会社であるフランス電力公社が30%出資し、世界最新鋭の原子炉が設置された。
事故の原因は数週間前に起きた燃料棒の破損である。これにより放射性物質が流出したが、中国の安全規制当局は、運転停止を回避するために台山原子力発電所周辺の放射線量の許容限度を引き上げたという。中国当局が事故の公表を嫌がったために、フラマトムはやむなく米国を通じてその事実を明らかにした可能性が指摘されている。
前日の13日に閉幕したG7(主要7カ国首脳会議)の共同声明では「中国への懸念」が表明されていたが、まさに時を同じくしてそれが的中する事態が起きていたのである。その後、事態は幸いにも深刻化しなかったようだが、国際社会が懸念するのはフランスと中国の間の不協和音である。中国政府の隠蔽体質が、今後大規模な原子力発電事故を引き起こしてしまうとの危惧が高まっている。
今回の報道に触れてまず最初に頭に思い浮かんだのは、1986年4月の旧ソ連のチェルノブイリ原子力発電所事故である。当時のソ連当局は当初「原子力発電事故は生じていない」と主張していたが、多くの人命が失われたのは周知の事実である。1985年の逆オイルショック(原油価格の急落)により経済に大打撃を受けていたソ連は、この事故で国際的威信を失ったことが仇となって、建国約70年後の1991年に崩壊した。
中国も建国後70年が経過したが、今回の原子力発電事故以上に新型コロナウイルスの発生を隠蔽したことで国際的な威信が大きく揺らいでいる。旧ソ連とは異なり、現在の中国経済はパンデミックからいち早く回復したことにより、今後10年以内に米国を追い抜く可能性が高まっているが、「躓きの石」はないのだろうか。
中国の民間債務の対GDP比率(200%以上)や現在の高齢化率(13%)が30年前の日本と同水準になることは本コラムで何度も指摘したが、それ以外にも興味深い共通点が現れている。
今から思うと隔世の感があるが、1990年代初頭の日本経済も「今後10年以内に米国を追い抜く」と予測されていた。当時の米国世論は日本を最大の敵とみなし、「日本異質論」や「政・官・財の癒着のトライアングル」などの非難の大合唱となった。最近の世論調査では、米国人の89%が中国を「競争相手」又は「敵」とみなしており、当時の日本に対するバッシングの風潮を彷彿とさせる状況となっている。
現在の中国が当時の日本と類似するのは米国との関係だけではない。中国では最近「タンピン」という言葉が流行している。「タンピン」とは「だらっと寝そべる」という意味である。仕事をしないで寝そべって何も求めない、マンションや車も買わず、結婚もせず、消費もしないというライフスタイルのことである。
「改革開放」以来、経済の右肩上がりが続いてきた中国では、猛烈に働き地位や財産を得て裕福な家庭を築くことが国民の目標となってきたが、不平等感の高まりと生活コストの上昇で、この目標ははるか遠く手の届かないものになってしまった。就職難や物価の高騰、当局による情報統制などにより閉塞感が漂っており、「90後(90年代生まれ)」「00後(2000年代生まれ)」と呼ばれる世代を中心に、アグレッシブな親たちが望む出世や結婚などに関心を持たない人々が急増している。