伊藤忠商事は悲願に掲げていた純利益、株価、時価総額で業界首位となり「商社三冠」を達成した。財閥系商社の背中は遠かったが、岡藤正広会長が経営トップの座に就いて10年あまりで悲願が成就した。
伊藤忠は21年3月期に減益になったものの、非資源分野を中心に影響を最小限に食い止め、純利益で三菱商事を抜き、5年ぶりに首位に返り咲いた。豪州で鉄鉱石を生産するIMEAの取り込み益が906億円、中国のCITICの取り込み益が725億円、タイで配合飼料や畜産事業を展開するチャロン・ポカパン(CPグループ)の事業再編に伴う株式再評価益が402億円に達した。この3社(2033億円)で連結純利益の半分を占めた。
伊藤忠は15年、日本企業最大の対中投資となる6000億円を投下してCITIC株を取得した。当時の株価は13.8香港ドルだった。これが3月末に7.36ドルまで下落したため、「日本の決算基準に則り単体決算で2427億円の減損損失を計上した」(鉢村剛副社長兼CFO)。国際会計(IFRS)基準では監査法人にも確認の上、「減損は不要と判断した」という。さらにコロンビアで一般炭を産出するドラモンドも21年3月期に撤退を決め、同年3月期単体決算で948億円の損失を出した。その結果、単体決算は713億円の赤字(20年3月期は2484億円の黒字)となった。「コロンビアの一般炭事業から撤退に伴う連結決算の影響は軽微だった」としている。
「新型コロナウイルス禍を乗り越え、成長軌道に戻る年にする」。石井敬太社長COO(最高執行責任者)は5月10日のオンライン会見で力を込めた。22年3月期の純利益は21年同期比37%増の5500億円と2年ぶりに最高益の更新を見込む。
三井物産の21年3月期決算はモザンビークの炭鉱事業などで損失を出したが、鉄鉱石価格の上昇もあり14.3%の減益にとどめた。丸紅は農業・食料関連が好調で、20年3月期の過去最大の赤字(1974億円の赤字)から一転、大幅黒字となった。
豊田通商は自動車販売の回復が貢献し、ほぼ前期並みの利益を計上。双日は自動車や金属・資源が苦戦した。住友商事はマダガスカルのニッケル鉱山がコロナで操業停止を余儀なくされ、過去最大1530億円の赤字(20年3月期は1713億円の黒字)に転落した。
住友商事は22年3月期の最終利益で2300億円の黒字に転換する。マダガスカルのニッケル鉱山の操業が再開し、新型コロナで打撃を受けた鋼材や自動車製造部門も回復する。原油など資源価格の上昇が追い風となる。減損などの一過性の損失も減り最終黒字を見込む。5月10日、不動産や農業で稼ぐなどの新しい方針を打ち出したが、株価への反応は鈍かった。
石炭火力発電所という世界の脱炭素の流れに逆行する動きをどうやって止めるのかが、大きな経営課題となっている。インドネシアで大型火力発電所「タンジュン・ジャティB」の5・6号基を建設中だ。「2040年代後半には石炭火力から撤退する」と中期経営計画では明らかにしているが、「タンジュン・ジャティBの1~6号基だけで年間200億円程度の利益貢献がある」(外資系証券会社の商社担当のアナリスト)と試算されている。この穴を何で埋めるのかである。
「24年3月期に連結純利益3000億円以上」という高いハードルを掲げている。実現すれば過去最高益になるが前途は平坦ではない。しかも、21年3月期決算では一過性の損益を除いた純利益の“真水”の部分で丸紅に抜かれた。これを好感して丸紅株は上昇したから皮肉である。