米国、黒人男性の1千人に1人が警察官により殺害…全米で殺人事件急増、警察改革に壁

 警察官が目立つ場所では犯罪が減少することが統計で示されているように、アフリカ系住民を含め、大半の米国人は「警察予算の削減」を望んでいないとされるが、ミネソタ州の事件を契機に「警察予算を削減せよ」とする活動が盛り上がり、一部の自治体では警察予算が大幅削減となった。「因果応報」なのかもしれないが、昨年の抗議活動で警察官が事実上職務停止に追い込まれた都市では飛び抜けて殺人事件が多い。例えば、ミネソタ州のミネアポリスは75%増、オレゴン州のポートランドは60%増である。

 米国の殺人事件の多さの原因は、人口以上の数の銃(約4億丁)が出回っていることにあるとして、バイデン政権は銃購入者の素行調査の厳格化や犯罪に使われやすい自作銃の規制などに乗り出している。米国では1994年から10年間、自動小銃の所持が法律で禁じられたが、この法律の成立に中心的な役割を担ったのは当時上院議員だったバイデン大統領である。現在の米国の状況をかんがみれば、警察改革以上に銃規制は難題といえるが、「バイデン政権の誕生は非合法だ」と考えている勢力は反発を強めていることだろう。

 前述のタルサでの演説でバイデン大統領は、自らの政策に反発しているいわゆる「白人至上主義者」のことを「精神を病んだ危険な人々」とし、「米国内で最大の脅威は、イスラム国でもアルカイダでもなく、白人至上主義者によるテロだ」と非難した。米国の情報機関を統括する国家情報長官室は今年3月「人種差別に基づく過激主義者などが国内のテロに関する最も致命的な脅威となっており、その脅威は今年さらに拡大する可能性がある」との見解を示していたが、5月下旬にニューメキシコ州在住の男がバイデン大統領の殺害を予告する内容のメッセージを複数の相手に送信したとして訴追された。

 バイデン大統領の就任以来、ワシントンでは「『0』で終わる年に当選または再選した大統領は在任中に不慮の死(暗殺<または未遂>や病死)を遂げる」とする不吉なジンクスが密かに広まっているが、2020年当選のバイデン大統領がこの悪しきジンクスと無縁であることを祈るばかりである。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

●藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省

1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)

1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)

1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)

2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)

2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)

2016年 経済産業研究所上席研究員

2021年 現職