緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の対象となる都道府県が、どんどん増えている。飲食店は時短営業のみならず、酒類の提供が禁止された地域も少なくない。最初は、まさか冗談でしょう、禁酒法でもあるまいし、とタカをくくっていたところ、本当にそうなったことには驚いた。
別に酒が新型コロナウイルスを媒介するわけではないのだが、「飲んで大声で騒ぐ」ことが感染リスクを高めるから、という理屈によるらしい。そうであれば牛丼屋で一人、寡黙に飲んでもダメなのかという気がするが……。
ただでさえ飲食店の経営状況は苦闘が続いている。帝国データバンクによると、2020年度における飲食店事業者の倒産は715件。2年連続の700件超えとなり、過去3番目の高水準となった。業態別で見ると、「酒場・ビヤホール」が183件(全体の25.6%)とかなりの割合を占め、 2000年度以降で最多を更新したという。
そこへきての「酒類提供NG」だ。これは飲食店にとっては最強のダメ押しとなるだろう。ワインバーやビアホールやバーなどは、真っ向から存在を否定されたようなもの。焼肉屋や焼き鳥、お好み焼き屋も、ビールが出ないとなれば魅力激減、日本酒が飲めない寿司屋もまたしかりだ。酒は主食でおコメ替わりという筆者にとっても、これ以上厳しい試練はない。
利用者もつらいが、最も苦しんでいるのは飲食店やその取引先だろう。お上に言いたいことも多々あるに違いない。でも、お酒の消費量が減ると、国も少しは困るのではないだろうか。
たとえば税金だ。飲食店の売り上げが減っているのだから納税額もがた減りしているのは言うまでもないが、その他に酒税というものがある。お酒の需要が減れば、そっちの税収も減るのではないか。実際には、どれくらいのものなのだろう。お酒が飲めない暇つぶしに、まずそこから調べてみた。
昨年も酒税は話題になった。酒税法改正により、ビールの税率が下がり、新ジャンルと言われる第3のビールが引き上げられたのは、2020年10月のことだった。酒税改正は全部で3回にわたって行われる予定で、ビール系飲料は最終的に同じ税率に統一されることになっており、昨年は見送られた発泡酒も次回2026年には引き上げになる。
昨年の改正では、清酒の税率は下がり、ワインは上がった。チューハイやウイスキー、ブランデーもこの先上がる予定だ。家計に与える影響は小さくないだろう。
このように消費者は酒税と消費税を払ってお酒を購入しているわけだが、とはいえ直接納税しているわけではない。税金を納める義務のある人(納税者)と、税金を負担する人(担税者)が異なる税金は間接税にあたり、酒税はこっちに入る。酒税法では、酒税の納税義務者は「酒類の製造者」及び「酒類を保税地域から引き取る者」と規定しており、後者は海外からの輸入業者を指す。ちなみに、他の間接税には消費税、揮発油税(ガソリン税)、たばこ税、関税、印紙税などがある。
次に、今年の国家予算の一般会計歳入額を見てみよう。令和3年度の酒税の概算額は1兆1760億円。ちなみに、先に挙げた間接税の中で、消費税を除けば約2兆円のガソリン税に次ぐ税収となっている。
今年の課税状況はどうか。国税庁の令和2年度の速報値では、昨年4月から今年2月までの累計で1兆273億円。花見も歓送迎会も忘年会も新年会もなかったせいか、ずいぶんな減り方だ。対前年比で1割以上も減少している。
飲食店でお酒が飲めなくなると、そのぶん出荷も減るだろうし、東京や大阪といった大都市圏の飲食店で酒類の提供ができなければ、かなり影響があるはずだ。家飲みだけでは、さすがに落ち込みはカバーできないだろう。