富士フイルムの複合機の世界シェアは9%。リコーやキヤノンなどに次いで第5位だ。英語圏ではコピーすることをゼロックスすると言う。ゼロックスの知名度は高く、100億円のブランド使用料以上の有形無形のメリットがあったはずだ。永年親しまれてきたブランドを失うことが致命傷になることもあり得る。
米ゼロックスへの製品供給はどうなるのか。現在は富士フイルムの工場で生産した複合機をゼロックスに供給しているが、24年にOEM契約の更新期を迎える。20年3月期の海外売上高(仕向地ベース)は米州が18%(4200億円)、欧州が13%(2900億円)。合計で7100億円に達する。当然、米ゼロックスへのOEM供給分が含まれる。同期のドキュメント事業の売上高は9700億円だった。ゼロックスが調達先を他のメーカーに切り替えれば、工場の稼働率はガタ落ちになる。
自社ブランドで欧米に進出するといっても、無名のブランドで参入するには高い壁がある。事務機器は成熟した市場になっており、ブランド力が物を言う。脱ゼロックスは大きな試練である。古森氏は退任会見で「気力、知力は衰えていない」と語っていた。「社名を変更したBIの業績が急降下して古森最高顧問がCEOに復帰する」(外資系証券会社のアナリスト)と予想する向きもある。脱ゼロックスに失敗すれば、「独自のブランドになった複合機事業を成長軌道に戻す」という名目で、1年後にドンが経営陣に返り咲くかもしれないのだ。
(文=編集部)