世界で「安全な水」争奪戦、各国産業を左右…日本企業の高い水精製技術、重要度高まる

 水の精製などに関する技術は、日本のお家芸だ。そのなかでも、成長への期待が高まっているのがオルガノだ。世界的な水ビジネス業界の展開を確認すると、フランスのスエズなど「水メジャー」と呼ばれる欧州の公共プラント大手企業が存在感を発揮してきた。しかし、過去5年程度の株価推移を見ると、オルガノの株価はスエズを上回って推移している。それが意味することは、世界の水ビジネスを取り巻く環境が大きく変化していることだ。ポイントは、オルガノが持つ水の精製技術とシステム面での競争力の高さだ。

 新型コロナウイルスの発生によって世界のデジタル・トランスフォーメーションが加速したことは、半導体需要を押し上げた。その結果としてオルガノの超純水技術への需要も急速に拡大した。現在、深刻な水不足に直面している台湾の半導体業界は同社の技術をより必要としている。台湾のTSMCの生産ラインを各国の家電、IT機器、自動車などの企業が取り合っていることを考えると、オルガノは世界のIT先端技術を支える超純水メーカーとしての立場を確立している。同社の超純水精製技術は、台湾の半導体業界に加え、中国の半導体企業からも必要とされている。米国が半導体生産能力の引き上げを目指していることも同社の収益獲得にプラスに働く可能性がある。

 また、オルガノは超純水精製などを行う装置の円滑な稼働を支えるソリューション事業も強化し、機器の稼働データを分析して故障などを未然に防ぐシステムを提供している。それが、超純水精製技術と相乗効果を発揮し、海外企業の需要獲得につながっている。

重要性高まる循環的な水資源の利用を支える技術開発

 超純水以外の水ビジネスでもオルガノの成長を期待する投資家は多い。コロナ禍によって世界的な産業排水の浄化や、上下水道の整備の必要性も一段と増した。水処理エンジニアリングと水処理の薬品や微酸性電解水などの機能性商品の両面で、世界がオルガノの技術をより必要とし始めている。

 中長期的に、オルガノをはじめとする日本の水関連企業は、水の精製技術とプラントの稼働を支えるシステム(ソリューション)の強化に取り組むことによって、より高い成長を目指すことができるだろう。そのために注目したいのが、水の循環利用を支える技術とシステムの開発だ。その一つとして海水の利用がある。

 世界の水資源の97.5%は海水などだ。淡水は全体の2.5%であり、河川など利用しやすい水は0.01%程度しかない。その一方で、気候変動の影響などによって水資源の不足は深刻化する恐れがある。2030年には全世界の水需要に対して、利用可能な水資源が40%不足するとの予測もある。

 安定した水の供給のために、海水の淡水化技術の重要性は増す。日本企業は海水の淡水化に用いられるフィルター(膜)市場で世界の50%程度のシェアを持つ。高機能の逆浸透膜の研究・開発を進め、省エネと高い水質の両立を目指している。

 それに加えてオルガノをはじめ日本企業に期待したいのが、濾過した海水からもたらされる高濃度の塩水の再利用技術の確立だ。すでに日本では排水の濃度を海水と同程度に薄める技術が開発されてきた。米国などではスタートアップ企業が塩を活用したエネルギーの貯蔵技術などに取り組んでいる。そうした次世代の技術と日本の水精製技術の結合は、世界の水ビジネスにさらなる変革をもたらすだろう。

 世界的に水ビジネスの重要性が高まる中で日本企業に求められることは、最先端の研究内容を積極的に生かして、より循環的な水の利用を目指すことだ。それは、日本企業が新しい水関連技術の創出によって世界的な水不足問題解決への貢献と、市場開拓を進めることを意味する。そうした観点から、日本企業がより積極的に新しい素材や水の精製技術を確立し、水不足に悩む国や地域の要請に応えていくことを期待したい。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

●真壁昭夫/法政大学大学院教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。

著書・論文

『仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)

『逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)

『VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)

『AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)

『行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。