毎月の給与だけではない。週休3日制のメリットとして育児や介護との両立が挙げられているようだが、現在でも社会保障制度での休暇が認められている。これら育児休業や介護休暇を取ると、要件を満たせば所定の給付金が出る。
たとえば、介護休業給付の1支給単位期間ごとの給付額は、「休業開始時賃金日額×支給日数×67%」により算出され、介護休業開始前6カ月間の平均月給が30万円程度の場合、支給額は月額20万円程度が目安だという。このように、給付金は月額で受け取っている賃金が計算の基準になっている。つまり、給与が減れば、これらも連動して減る可能性があるということだ。
休日の増加は人生のクオリティを上げる一要素だ。お金では幸福は買えないかもしれないが、やっぱりあった方が助かる。現状の制度をわかった上で、総合的に判断すべきだろう。
もし週休3日を選択した結果、以前より減収になったとしても、現役時代は共働きなどでカバーできるかもしれない。それより気になるのは、将来の年金だ。厚生年金保険の保険料は、毎月の給与(標準報酬月額)と賞与(標準賞与額)に保険料率をかけて決まる。標準報酬月額は、基本給のほか、残業手当や通勤手当などを含めた税引き前の給与を1~32の等級に当てはめて決まる。すでに残業や通勤手当が減っているのに加え、もし基本給が下がるとすると、確実に等級にも変化が及ぶだろう。
現在の月給が34万円の人が、仮に約1割減となって30万円まで下がれば、等級は2つ下がることになる。納める年金保険料も減るが、それに連動して、将来受け取れる年金も減る可能性がある。もし、その後も給与が思うように増えなければ、現状の給与が続くと想定したときより受給できる年金額も少なくなってしまうのだ。
年金は、なんといっても老後の収入の柱だ。今の働き方だけで選択してしまうと、それが後々尾を引くことにもなりかねない。「週休3日で働けるなら、少しくらい給料が減ってもいいか」と、あまり単純に喜べる話ではないのだ。
選択的週休3日制度が職場に導入される日が来たら、目先のメリットだけでなく、これら社会保険の制度をよく理解し、会社にも説明を受けた上で選択をしてほしい。公的年金が少々減っても賄えるように、老後資金の確保や副収入を得る準備を今から始めた方がいいだろう。
とはいえ、週休3日で仕事から離れられることで、メンタルヘルスが健全になるケースもあるかもしれない。強いストレスは心身にも深刻なトラブルを引き起こす。定年後も働き続けなくてはいけないならば、健康は最大の武器だ。
コロナの影響は簡単に収まりそうにない。最初に書いたように、目前では光熱費・通信費等の、本来なら職場が負担していたコストが自己負担としてのしかかる。そして、労働時間が減って給料も下がれば、社会保障の給付額や将来の年金が減少しかねない。その穴埋めも自分で賄うほかないのだ。
淡々と仕事を続けていけば、コストはすべて会社持ちで変わらずに給料がいただける時代はコロナで一変してしまった。家計全体をコストダウンして、減収に耐える生活サイズに収めるか。それとも、副業できるスキルを磨いて、老後資金も見据えて稼ぐのか。
どんな選択をするかを一人ひとりに迫るのが「自己負担社会」の姿でもある。なかなか厳しい時代だが、サバイバルする術はきっとあると信じたい。
(文=松崎のり子/消費経済ジャーナリスト)
●松崎のり子(まつざき・のりこ)
消費経済ジャーナリスト。生活情報誌等の雑誌編集者として20年以上、マネー記事を担当。「貯め上手な人」「貯められない人」の家計とライフスタイルを取材・分析した経験から、貯蓄成功のポイントは貯め方よりお金の使い方にあるとの視点で、貯蓄・節約アドバイスを行う。また、節約愛好家「激★やす子」のペンネームでも活躍中。著書に『お金の常識が変わる 貯まる技術』(総合法令出版)。Facebookページ「消費経済リサーチルーム」