JAL・ANA合併も囁かれる航空業界、コロナで急速なIT化→人員大余剰が現実化する

 これまでLCCが行ってきたような事前オンライン注文という食事のサービス形態は、今後フルサービスエアラインも模倣することになる。接触を少なくするためにオンラインを駆使することが社会的な要請とされている現状を反映した施策が、打ち出されていくのだろう。その結果として、必然的にヒューマンリソースが余剰となり、人員整理が強力に推し進められていくと予測される。

はたしてアフターコロナは吉と出るか凶と出るか

 今年2月に入ってから、世間では新型コロナウイルスのワクチン接種のニュースで持ち切りだ。航空業界を含む世界の観光業とその従事者たちも、この「ワクチン」というゲームチェンジャーを藁にもすがる思いで見ている。

 欧米、イスラエルなどから始まったワクチン接種は日本でも始まり、その供給量や副反応など、さまざまな問題が取りざたされている。国内のワクチン供給事情は科学的な規制のほか、官僚主義的な制約も絡み、まさに自転車操業。政府や自治体からは楽観的な理想論が繰り返しアナウンスされているが、計画通りに進捗することなど絵に描いた餅ではないかと思われる。こんなドタバタ劇のなか、はたしてコロナ収束はシナリオ通りにいくのだろうか。

 某エアラインのトップは、コロナのつけを取り戻し黒字決算まで回復するには4~5年の年月が必要だと予測している。交通関連業のなかでももっとも甚大な被害に遭ったのはエアラインだという現実を、直視する必要があるのだろう。

 公共交通機関の一翼を担う航空業界は、自社の利益を度外視してでもコロナ対策を徹底する社会的な責務がある。そのため、ワクチン接種による世界的な集団免疫の獲得が達せられない限り、旅行需要の回復は見込めず、航空業界の再浮上を見込むこともできない。だが、感染状況が落ち着くと共に社会の混乱が沈静化すれば、オセロ返しのようにリカバリーできる可能性は十分あると思う。

 ドイツの哲学者マルクス・ガブリエル博士(1980-)は、アフターコロナ時代は「New enlightenment(新しい啓蒙)」の時代と説いている。病から立ち直るためにもっとも重要なことは、世の中の理不尽さに勝るものは国家権力ではなく、国民の自主的な「倫理と文化」で立ち向かうことであるという。筆者も同感である。

 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会前会長の森喜朗氏の問題発言や、その後任の会長選出の茶番劇を見るにつけ、この国に倫理と文化がどこまで根付いているのか甚だ疑問である。だが、曲がりなりにも民主主義国家として歩んできた日本。今後の行く末も国民一人ひとりの自覚に委ねられているのは間違いないだろう。

 どのようにコロナ禍の混乱が沈静化し、社会が落ち着きを取り戻していくのか。現状を見る限り予測は困難である。だが、航空業界はいつか必ず復活すると信じている。そして、トンネルを抜けた先に、「お客様を快適に目的地にお届けする」という責務を担う、誇り高きエアラインスタッフの出番がもう一度やってくることを願わずにはいられない。

(文=杉江弘/航空評論家、元日本航空機長)

●杉江弘/航空評論家、元日本航空機長

慶應義塾大学法学部卒、日本航空入社。 DC-8、ボーイング747、エンブラエルE170に乗務。首相フライトなど政府要請による特別便の経験も多い。ボーイング747の飛行時間は1万4051時間という世界一の記録を持つ。2011年10月の退役までの総飛行時間は2万1000時間超。日本航空在籍時、安全施策の策定推進の責任者だったときにはじめた「スタビライズド・アプローチ」は、日本の航空界全体に普及し、JAL御巣鷹山事故以来の死亡事故、並びに大きな着陸事故ゼロの記録に貢献している。 航空問題と安全問題について出版、新聞、テレビなどメディア、講演会などで解説、啓蒙活動を広く行っている。著書多数。