ここには、成年後見制度の利用を求める原則は変わらないとする一方、限定的に親族の引き出しに応じることも可とし、その際には、認知判断能力の喪失について本人との面談や診断書提出、担当医への聞き取りなどで確認すること。また医療費明細などの証明書類の有無など、本人の利益に適合する支払いかを確認する旨が明記されている。
ただし、この考え方は、各銀行の参考となるよう取りまとめられたもので、個別の状況等によって、異なる対応が取られるケースもあることが注釈として付されている。銀行の対応が一律になったと早合点しない方が良さそうだ。とはいえ、これまでよりも、交渉がしやすくなったのは確か。消費者としては、銀行業界でのこのような動きを是非知っておきたい。
<参考>
※全国銀行協会「金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方について」
認知症高齢者への対応を強化しているのは銀行だけではない。生命保険協会では、認知症などで保険契約者本人が契約の有無や内容を把握できない場合、親族から照会を受け付ける制度を2021年7月から開始する。
同協会では、これまで自然災害で保険証券などが消失し、給付金の請求ができないなどの場合の対応策として「災害地域生保契約照会制度」を設け、遺族らの照会に対応してきた。今回は、本制度の運用を拡大し、契約者が死亡あるいは認知症を発症したり判断能力が低下したりした場合、同協会が窓口となって家族らから契約の有無について照会を受けられるようにする。
災害時の照会の場合、該当の生命保険契約がある時は、加入している生命保険会社から連絡が来るが、新たに創設される制度の場合、同協会から照会者に直接連絡が来る。ただ、確認できるのは、同協会に加盟している生命保険会社の契約で、損害保険や共済などは対象外。そして、照会結果は、契約のある保険会社名のみで保険商品の種類や保障内容まではわからない。
あとは、契約のあった保険会社に別途問い合わせが必要となるが、保険契約の有無を確認できる方法ができただけでも一歩前進としたい。なお、生命保険協会によると、照会にかかる費用は1件あたり3,000円。照会から回答までにかかる日数はおおむね2週間程度だとのこと。
このように、高齢者の増加によって、国や業界では、さまざまな対応策が検討されている。「老親は、あっという間に亡くなって、財産管理のことなど、考えるヒマはなかった」という人も、長生きする限り、いずれ自分自身にも同じ問題が降りかかってくる。
成年後見制度や家族信託など、高齢者の財産管理の方法は、家族構成や状況によってベストなものは異なる。ただ、少なくとも銀行預金については、使っていない口座があれば早めに解約しておくことをお勧めしたい。
2018年1月に「休眠預金等活用法」が施行され、10年間取引がない、いわゆる休眠口座が「休眠預金」とみなさることになった。2019年1月以降に発生する休眠預金は、民間での公益的な活動の支援に活用される。10年過ぎても、届出をすれば預金は戻ってくるが、自分でも口座の存在に気づいていないかもしれない。不安な方は、一度銀行あるいは専門家に相談してみると良いだろう。
(文=黒田尚子/ファイナンシャル・プランナー)
●黒田尚子/ファイナンシャル・プランナー
1969年富山県富山市生まれ。立命館大学法学部卒業後、1992年、株式会社日本総合研究所に入社。在職中に、FP資格を取得し、1997年同社退社。翌年、独立系FPとして転身を図る。2009年末に乳がん告知を受け、自らの体験から、がんなど病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動を行うほか、老後・介護・消費者問題にも注力。聖路加国際病院のがん経験者向けプロジェクト「おさいふリング」のファシリテーター、NPO法人キャンサーネットジャパン・アドバイザリーボード(外部評価委員会)メンバーなども務める。著書に「がんとお金の本」、「がんとわたしノート」(Bkc)、「がんとお金の真実(リアル)」(セールス手帖社)、「50代からのお金のはなし」(プレジデント社)、「入院・介護「はじめて」ガイド」(主婦の友社)(共同監修)などがある。