成年後見人は、本人の財産を守ることが職務であるため、財産を積極的に投資あるいは不動産に担保権を設定する等ができなくなる。相続対策も、財産保全を目的とするもの以外は不可。例えば、生前贈与や現預金を不動産にしたり、不動産の上に建物を建てたりといった、財産評価を逓減させるような「相続税」対策は、財産を相続する相続人のためのものとして認められない。要するに、成年後見制度を利用すると、本人の資産は事実上「凍結」してしまう。
もちろん、成年後見制度には、成年後見人が本人に不利にならないよう財産を管理したり、契約を代理してくれたりといったメリットも大きい。とはいえ、上記のようなデメリットばかりが目につくようで、身内の財産を第三者に任せたくないと、親族は二の足を踏む。実際に、成年後見人を選任していないケースも多く、利用者は伸び悩んでいる。
成年後見制度の利用状況は、2020年12月末時点で約23万人。2013年12月末時点の約17.6万人と比較すると、近年じわじわと増加傾向にあるものの、認知症高齢者数が約600万人(推計値:2020年)もいることから考えると著しく少ない(※)。
※厚生労働省「成年後見制度利用促進に関する現状(概要)」
国は、なんと成年後見制度普及のために法律までつくっている。2016年5月に「成年後見制度の利用の促進に関する法律」を施行し、翌年2017年3月には、これに基づき「成年後見制度利用促進基本計画」が閣議決定。2018年4月から厚生労働省が「成年後見制度利用促進室」が設置されている。
積極的に制度を推進していきたい国と今一つ消極的な消費者の間に挟まれて苦慮しているのは銀行である。2020年3月21日付の朝日新聞デジタルの記事(※)によると、全国銀行協会が会員113行の回答を元に2019年11月にまとめた、「認知症対応に関するアンケート結果」では、6割超の銀行が、3年前と比べて認知症の顧客との窓口対応で困った件数が「増加している」と回答。困る取引は多い順に「普通預金の入出金」(107行)、「定期預金の預け入れ・解約」(104行)、「運用商品の解約・変更」(53行)である。
さらに、本人との取引が難しい場合の親族らとの取引対応については、「成年後見制度の紹介」(105行)が最も多い。次いで「必要な範囲内で本人以外の取引に応じる」(64行)が挙がっており、約6割の銀行では、すでに親族の引き出しに対応しているという。
※「認知症の人の預金、銀行の6割「親族の引き出し」に対応」(2021年3月21日)
とはいえ、他行の動向が気になりがちな銀行だけに、指針となるべき業界統一の対応が求められていた。そこで2020年3月、全国銀行協会では、認知症高齢者など、預金者本人の意思確認ができない場合に親族が預金を引き出せる等、対応に関する通達を出している。
HPでは、一般向けの案内資料が公開されており、これによると、以下の資料を揃えれば、引き出しに対応してもらえる可能性が高い。
・預金者本人の(1)通帳、(2)キャッシュカード、(3)銀行届出印
・来店者の(1)本人確認書類、(2)預金者ご本人との関係性がわかる書類(戸籍抄本など)
・お金が必要な理由がわかる資料(入院や介護施設費用の請求書など)
さらに2021年2月には、同協会から、高齢者との金融取引、親族との代理等に関する考え方および銀行と自治体や社会福祉関係機関等との連携に関する考え方が新たに発表された。