30年も音信不通の家族にも“扶養照会”…生活保護申請者を苦しめ、家族関係を壊す悪習

「父親のDVで、15歳のときに母とシェルターに逃げた。生活保護申請時に事情を話して扶養照会をしないでほしいと伝えたが、『規則なので』と言われました。扶養照会により父親に居場所がバレて何度も押しかけられた。生活保護費も、家電なども奪われました」

「86歳の女性が、30年以上も音信不通だった81歳になる弟の扶養照会を受けた。わずかな年金収入しかない高齢者に扶養照会をするという感覚が信じられない。もしや援助しないと罰せられるかもしれないとさえ彼女は感じて、不安でよく眠れなかったそうです」

「障害者のグループホームの入居者宛に親の扶養照会の文書が届きました。その方はパート就労をしていて月給は10万円です。役所のマンパワーとコストをかけてまで行う必要があるでしょうか」

「ケースワーカーとして扶養照会を送ると、激怒した電話をもらい、『二度と連絡してくるな』と言われたり、長い長い手紙に相談者からどれだけ迷惑をかけられたか綴ってこられたり、ビリビリに破られた扶養照会用紙が返信されたりと非常にストレスでした。扶養、仕送りが実現したことは一度もありません」

厚生労働省が見直しを決めるも、小手先の対応

 実際、扶養照会をして援助に結びつくのは1%にも満たない。核家族の時代において、多くは自分の生活で手いっぱいだろう。問い合わせのための手間や送料も無意味だと言えるのではないか。

 2月8日、つくろい東京ファンドと生活保護問題対策全国会議は「扶養照会を実施するのは、申請者が事前に承諾し、明らかに扶養が期待される場合のみに限る」などと記した要望書と約3万5800人分のネット署名などを厚生労働省に提出した。

 2月26日、厚生労働省は各自治体に対し、扶養照会の運用を見直す通知を送付した。借金を重ねている、相続をめぐり対立している、縁を切られている、10年程度の音信不通である場合など扶養義務履行が期待できない者の判断基準を以前よりも明確化した。

 上記2団体は28日、厚労省の通知を一部評価しながらも、「尚、小手先の対応であり、申請者が事前に承諾した場合に限定すべき」とする緊急声明を出した。その後もネット署名数は増え、3月5日の段階では賛同者は5万7000人まで膨れ上がっている。さらには、扶養照会の廃止を求める意見書を議会で採択した自治体も現れ、支援団体の尽力の成果は少しずつ現れてきているようだ。

(文=林美保子/フリーライター)

●林美保子/フリーライター

1955年北海道出身、青山学院大学法学部卒。会社員、編集プロダクション勤務等を経て、フリーライターに。主に高齢者・貧困・DVなど社会問題をテーマに取り組む。著書に『ルポ 難民化する老人たち』(イースト・プレス)、『ルポ 不機嫌な老人たち』(同)。