コロナ禍で生活に窮する人が増えている。生活困窮者支援団体「一般社団法人つくろい東京ファンド」が支援活動を行うなかで気づいたのは、生活保護に対して忌避感を持つ人が非常に多いということだった。巷では、生活保護の不正受給問題ばかりがクローズされる嫌いがあるが、現実にはそれはほんの一部だ。
「仕事がなく、手持ちのお金が数百円しかないという困窮の度合いが高い人が利用できる制度は、事実上生活保護しかないのですが、申請を勧めても、『生活保護だけは受けたくない。ほかに制度はありませんか』と言う人は少なくありません」と、稲葉剛代表理事は語る。
同団体では、年末年始に行った相談会に参加した人を対象にアンケート調査を実施。生活保護を受けたくない理由としては、住まいを持っていないと劣悪な施設に入れられるとか、生活保護のイメージがよくないというのも少なくなかった。
「これまで問題なく生活できていた人も、コロナ禍で生活保護と無縁ではなくなっている。こういう人は特にハードルが高いんです。生活保護制度の話をした途端に顔色を変えて、『あれは、ギャンブルなどでどうしようもなくなった連中が利用する制度だろう。そんな制度を私に勧めるのか』と言われたことがあります」と、「生活保護問題対策全国会議」の田川英信事務局次長は語る。
そのなかで、生活保護申請を阻む理由として最も多いのが、扶養照会(34.4%)であることがわかった。扶養照会とは、生活保護の申請をした人の親族に援助が可能かどうかを問い合わせる制度である。アンケート調査では、約4割が、「扶養照会をせずに家族に知られることがないなら生活保護を受けたい」と答えている。
今までは親族と20年連絡をとっていなかったり(東京都は10年)、親族からDVや虐待を受けていたり、あるいは親族が高齢や未成年である場合には扶養照会をしなくてもよいとされてきた。しかし、「しなくてもよい」という曖昧な表現であったため、事情を考慮せずに一律に扶養照会をする自治体職員も少なくない。
「30年も40年も音信不通だとか、一度も会ったことがないのに扶養照会をする事例も見受けられます。家族関係が壊れているケースはもちろん、良好であっても扶養照会することで家族関係が壊れてしまうこともあります。生活保護申請をしたことで、『家の恥だ』と家族に罵られ、それ以来、冠婚葬祭の連絡が一切来なくなったり、縁を切られたりする例もあるのです」と、田川さんは語る。
「役所が連絡をすると、家族が体面を気にして、そのときには『援助します』などと答えるのですけれども、口先だけで、家族からも自治体からも援助されず、ホームレスになってしまったという事例もあります」と、稲葉さんも語る。
アンケート調査の結果を踏まえ、つくろい東京ファンドでは、署名サイトで「困窮者を生活保護制度から遠ざける不要で有害な扶養照会をやめてください!」と呼びかけた署名活動を1月16日から開始した。
「扶養照会という言葉自体、生活保護に関わる関係者以外、ほとんど知られていないので、ネット署名を始めるまでは、どのくらい広がるのか予測できませんでした」と、稲葉さんは語る。
ところが、蓋を開けてみると、続々と署名が集まった。
また、Googleフォームを使って扶養照会にかかわる体験談も募集すると、さまざまな立場の当事者・関係者から、体験談の投稿が相次いだ。以下は、そのほんの一部である。