なぜ吉野家・松屋の「客単価」はコロナ前を上回っている?牛丼チェーンに学ぶ生き残り策

 松屋もテイクアウト専門店の強化を図った。吉野家と異なりテイクアウトも店内のカウンターで受け取る松屋は、コロナ禍で苦戦を強いられた。多言語対応や決済手段の多様化にいち早く取り組んだ松屋は、券売機の分野では先行した。最近では店舗外でプレミアム牛めしを300円で提供している。店内の密を軽減するため80円安い価格で販売している。もともと具材とご飯が分離している松屋の弁当容器だからこそ、テイクアウトでも牛めしとしての味わいの劣化が少ないといわれている。店頭販売ゆえにおつりの準備を少なくするための値付けでもあるのだろう。

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天丼てんや 学芸大学店

 東京・学芸大学駅前では松屋と「てんや」が軒を並べている。筆者が訪問した日は、「てんや」が上天丼弁当500円(通常650円)のキャンペーンを展開していた(画像参照)。

 吉野家と松屋の月次報告を比較してみよう。吉野家の2月の全店売上高は前年同月比84.4%、客数は81.7%、客単価は103.3%であった。昨年9月以降の客単価は各月とも前年同月比100%を上回っている。客数は時短営業の影響もあり同100%を上回る月はなかった。吉野家は時短営業に伴う「ちょい飲み需要」の取り込みができなくなったことが(冬の定番商品が単価の底支えになったとはいえ)、客単価に大きく響いたと想定される。

 例えば東京・有楽町駅の店舗ではテイクアウトコーナーは活況を呈しているが、以前「吉呑み」の提灯が下がっていた奥側のコーナーは「テーブル席」と様相を一変していた。

 松屋は牛めし事業店の数値で見ると2月の既存客売上高は前年同月比81.0%、客数76.1%、客単価は106.5%であった。松屋も9月以降の客単価は吉野家同様に各月とも100%を上回っている。松屋は鉄板で調理する焼き物を得意としている分、客単価に貢献したといえる。

 緊急事態宣言の解除に伴う飲食店等の営業時間延長は、店舗やチェーンにとどまらず消費者、生産者にとって心理面の効果も大きいと考えられる。なぜなら感染予防に努めた飲食店で過ごすことは、感染拡大を抑止しかつ消費を回すことにつながるからだ。

 コロナにより移動が制限されたおかげで、地域にあるお店が見直されたという事例も多く聞かれるようになっている。地域をまたぐ、また旅行という移動を伴う消費活動の拡大は、次のステップでよいのではないだろうか。なぜなら飲食を伴う消費活動も、旅行に伴う消費行動も、ともに安全・安心な環境の下で推進されるものと考えるからだ。しばらくはコロナと付き合いながらも、がんばっている飲食店・生産者の応援に努めていきたい。

(写真・文=重盛高雄/フードアナリスト)

●重盛高雄/フードアナリスト

ファストフード、外食産業に詳しいフードアナリストとしてニュース番組、雑誌等に出演多数。2017年にはThe Economist誌(英国)に日本のファストフードに詳しいフードアナリストとしてインタビューを受ける。他にもBSスカパー「モノクラ~ベ」にて王将対決、牛丼チェーン対決にご意見番として出演。最近はファストフードを中心にwebニュース媒体において経営・ビジネスの観点からコラムの執筆を行っている。