中国人民銀行の調査統計局長だったエコノミストは3月中旬、「中国政府が金融政策の引き締めを通じて資産バブルを抑制しようとすれば、巨額の経済的損失をもたらすリスクがある」と異例の警告を行った(3月17日付ブルームバーグ)。中国銀行保険監督管理委員会(銀保監会)の郭主席は2日、「中国の不動産バブルの懸念」について言及した。郭氏は昨年12月にも不動産バブルのことを「灰色のサイ」に例え、「中国の金融安全を脅かす最大の危険要素である」と語っている。銀保監会によれば、中国の各金融機関から貸し出されている不動産関係の融資残高は約775兆円に達している(昨年初めの時点)。
日本経済が1990年代以降低迷を続けている理由は不動産バブル崩壊にあると考える中国政府は、あらゆる手段を講じて不動産バブルの崩壊を回避してきたが、2月20日付コラムで述べた通り、不動産価格の高騰が出生数の大幅減を招く事態となっている。このような事情から中国では「4月から全国の金融機関が住宅ローン業務を全面的に停止する」との情報が飛び交っている(3月19日付現代ビジネス)。
中国の社債市場では、当局の引き締め策の影響を受けて、今年に入りすでに100億ドル規模のデフォルトが起きている(3月19日付ブルームバーグ)。3月19日に開催された米中外交トップ会談での非難合戦を嫌気して、株式市場でも「パニック売り」が起きている(3月19日付ブルームバーグ)。
IEAは「25年までの原油需要の伸びの9割はアジアが占める」としているが、その中核を成してきた中国の需要は今後も順調に拡大するのだろうか。
思い起こされるのは、08年7月に1バレル=147ドルの最高値をつけた原油価格がその後急落し、2カ月後にリーマンショックが起きたということである。同じことが起きると断言するつもりはないが、原油市場の変調は、コロナバブルへの警戒感が高まる世界の金融市場で今後起きる大変動の予兆なのかもしれない。
(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)
●藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職