「どうやって新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)に関する情報をアップデイトしているのですか」
最近、このような質問を受ける機会が増えた。筆者は連載などで毎月15報ほどの文章を書いており、医療ガバナンス研究所から発表する年間100報程度の英文論文に何らかの形で関わっている。臨床医のなかでは発信力はあるほうだと思う。新型コロナの流行以降、特に発信の機会が増えた。冒頭は、筆者の文章をフォローされている方からのご質問だ。
筆者は臨床医であり研究者だ。発信する際には、エビデンスに基づいた具体的な議論を展開したい。そのためには、多くの情報を効率よく集めねばならない。本稿では、医師以外の一般のビジネスパーソンにも参考になりそうなノウハウをご紹介したい。
情報収集で重視すべきは、海外からの情報に目を通すことだ。新型コロナのような科学の問題は容易にグローバルスタンダードが形成される。医学のグローバルスタンダードは英「ネイチャー」、米「サイエンス」、英「ランセット」、米「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」などの総合科学誌や医学誌での論文発表や議論を通じて形成される。
臨床研究の場合、一つの画期的な研究が発表されて、それでコンセンサスが形成されることは少なく、追試が繰り返されて、やがて合意が形成される。このような合意は、前出の「ネイチャー」や「ランセット」の「総説」や「社説」という形で発表される。専門家は、このような記事に必ず目を通さねばならない。ただ、本稿では、このような専門誌からの情報収集は扱わない。また別の機会に論じたい。
では、一般人が新型コロナの専門情報を効率よく入手するには、どうすればいいだろうか。お勧めは、海外メディアの日本語版だ。最近は自動翻訳が発達し、どんな言葉で書かれたニュースでも日本語で読むことができるが、やはり日本人向けに書かれたニュースは読みやすい。お勧めは、英「ロイター」、米「CNN」、仏「AFP」だ。
「ロイター」と「AFP」は、米「AP通信」や「UPI通信」と並ぶ世界的通信社だ。「AP通信」や「UPI通信」には日本語サイトはないが、「ロイター」と「AFP」は日本語サイトがあり、スマホ用のアプリまで開発されている。「CNN」は、1980年にテッド・ターナーによって設立された世界初の24時間放送のニュース専門チャンネルだ。世界中のニュースをリアルタイムで報じている。このようなニュースをフォローすると、日本のメディアからは知ることができない情報や雰囲気を知ることができる。
例えば、2月22日に「ロイター」は「シノファームのワクチン、4300万回以上使用=中国国営メディア」「香港行政長官がシノバックのワクチン接種、市民の不安解消へ」という記事を掲載している。この2つの記事を読めば、中国は急速な勢いで国産ワクチンの接種を進めているが、国民はその品質に不安を覚えていることがわかる。
中国人の自国のワクチンに対する評価は合理的だ。2月9日、ブラジルとトルコで実施されたシノバックの不活化ワクチン「コロナバック」の第三相臨床試験の結果が公表されたが、有効性は51%だった。入院・重症・死亡は100%予防したものの、ファイザーやモデルナなどの欧米企業のワクチンと比べると見劣りがした。
このような評価は世界で共通だ。2月23日には「AFP」が「比、中国製ワクチン承認、有効性の低さから医療従事者と高齢者には非推奨」という記事が掲載されており、一連のニュースとも一致する。
ただ、中国の医学の進歩は急速だ。日本が開発できていない新型コロナワクチンを、独自に作り上げてしまった。現在も研究を進めており、2月3日にはシノバック社製の不活化ワクチンの高齢者を対象とした第1,2相臨床試験の結果が英「ランセット感染症版」に報告されているし、2月1日には中国クローバー社が米ダイナバックスのアジュバントを用いて、同社の蛋白ワクチンの第2,3相臨床試験を開始すると発表した。そして、2月23日には2億3000万ドルを調達したことを「フィアース・バイオテック」などが報じている。