総合商社7社の序列に異変が起きた。商社といえば財閥系で資源に強みを持つ企業が莫大な利益を上げるビジネスモデルが幅を利かせてきた。非財閥系の伊藤忠商事にとって三菱商事、三井物産、住友商事の財閥系“御三家”の壁は高く厚かった。それが様変わりするのだ。
2021年3月期の連結最終損益は伊藤忠が4000億円を計画している。総合商社7社の中で頭一つ飛び抜ける恰好になる。20年3月期は伊藤忠の最終損益が5013億円。対する三菱商事は5353億円となり、一歩及ばなかった。コロナ禍をくぐり抜けるなかで悲願としてきた「商社ナンバーワン」の地位が目前に迫ってきた。
2月4日のオンライン会見で、伊藤忠の鉢村剛最高財務責任者(CFO)は「年度ベースで、純利益や時価総額が総合商社でナンバーワンになる」と述べた。伊藤忠は16年3月期に、最終利益で首位に立ったことがあるが、この時はライバルの三菱商事、三井物産が資源部門で多額の減損損失を計上した結果、トップの座が転がり込んできた。岡藤正広社長(当時、現会長兼CEO)は「不戦勝」と評した。
あれから5年。伊藤忠は、総合商社の最終利益の首位に王手をかけた。20年4~12月期の純利益は前年同期比15%減の3643億円。通期の見通し(前期比20.2%減の4000億円)に対する進捗率は9割を超えた。鉢村CFOは「直近の収益力は過去最高水準。21年1~3月期に業績下押しの大きな懸念材料はない」とし、業績の上方修正の余地を残した。
「非資源ナンバーワン商社」の看板を掲げてきた伊藤忠は20年、コンビニエンスストアのファミリーマートを完全子会社にした。化学品や食料などが業績を下支えした。伊藤忠が今後とも、第1位の座を守り抜くにはファミマが鍵を握る。川上の原料調達から川下の小売店運営まで、一気通貫のビジネスを展開して安定的な収益を稼ぐには、コンビニが情報拠点としての役割を含めて重要な存在になるからである。
総合商社下剋上を象徴する存在が三菱商事である。三菱商事は、今期はコロナ禍で厳しい局面に立たされている。新型コロナウイルスの感染拡大で世界経済が停滞し、資源の需要が減退した。資源や自動車ビジネスの環境悪化の影響を三菱商事はダイレクトに受けた。グループ会社の三菱自動車は構造改革の真っ最中。三菱商事は最終利益の通期予想(前期比62.6%減の2000億円)を据え置くしかなかった。2月3日の電話会見で、三菱商事の増一行CFOは「着実に回復基調にある」とし、収益力が戻っていることを強調したが、決算方針に変更はなかった。
三井物産はコロナで打撃を受けた自動車生産の回復に合わせ、鉄鋼製品や化学品事業の収益が戻りつつある。鉄鉱石や原油の価格が堅調に推移していることから21年3月期の最終利益を上方修正した。従来予想の1800億円に900億円上乗せし、前期比31.0%減の2700億円を見込む。このまま行けば三菱商事を抜いて第2位に浮上する。
丸紅も最終利益の予想を1500億円から400億円積み増して1900億円に上方修正した。「高値づかみ案件」といわれてきた穀物メジャーのガビロン、豪州の鉄鉱石ロイヒルも市況が好転。20年3月期は資源安による減損損失を計上し、1974億円の巨額赤字を出したが、今期は一転、黒字に転換する。
実は丸紅は一過性の損失などを除いた実質純利益で2100億円を見込んでいる。QUICKコンセンサスによる22年3月期の最終利益の予想は2102億円である。もし、丸紅が2100億円の最終利益を出せば、三菱商事は4位に転落しかねない。