原油や食料等の商品市場、スーパーサイクル(長期の価格上昇)か…カギは「サウジ」リスク

 しかし、昨年前半に大幅に積み上がった世界の原油在庫や「世界の原油需要がコロナ禍前に回復するのは来年以降になる」との予測に加えて4月以降OPECプラスが増産する公算が高いことが、さらなる価格上昇の重しとなっている。

サウジリスク

 このような状況が変化するには、中東地域の地政学リスクの顕在化が必要だろう。バイデン政権になってもイランの核開発をめぐる緊張状態が続いているが、筆者はかねてから心配しているのはサウジリスクである。

 バイデン政権は、「世界最悪の人道危機」とされるイエメン内戦を終わらせるために国連とともに仲介に乗り出した。5年以上にわたり軍事介入を続けてきたサウジアラビアへの武器支援を停止するとともに、サウジアラビアと敵対するイエメンの反政府武装組織フーシ派のテロ組織指定も解除した。

 だが、これにより事態はむしろ悪化している。米国の政策転換に乗じてフーシ派は今後予想される和平協議で自らの立場を有利にするため、サウジアラビアに対して攻勢を強めているからである。サウジアラビアの空港などに対して2月中旬から連日のよう無人機(ドローン)攻撃を行っており、一昨年9月にフーシ派が行ったとされるドローン攻撃(サウジアラビアの原油生産能力が大幅に喪失)が市場関係者の脳裏をよぎるようになっている。

 サウジアラビアの政情への信頼感も揺らぎ始めている。サウジアラビアの昨年のGDP成長率は前年比4.1%減となった。国内で2月上旬に反政府デモが起き、反政府勢力がムハンマド皇太子に対する蜂起を呼びかけているとの情報がある。

 サウジリスクが顕在化すれば、原油価格が1バレル=100ドル超えとなるのは必至であるが、インフレ懸念から各国の中央銀行は引き締め策に転換せざるを得なくなる。「山高ければ谷深し」ではないが、中央銀行という後ろ盾がなくなれば、兆しが見え始めた商品市場のスーパーサイクルは立ち消えになってしまうのではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

●藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省

1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)

1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)

1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)

2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)

2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)

2016年 経済産業研究所上席研究員

2021年 現職