「商品市場で新たなスーパーサイクル(長期にわたる価格上昇)が始まっている」
JPモルガン商品担当者は2月に入りこのような見方を示した。確かに商品市場は好調さを取り戻し始めている。今年1月の世界の食料価格指数は113.3となり、2014年7月以来の高水準である。
商品市場が活況を呈し始めている背景には、新型コロナウイルスのパンデミックが影響している。コロナ禍により世界のサプライチェーンが圧迫され、原材料価格が上昇するとの憶測が高まっているからである。パンデミックによる景気後退を回避するために、世界各国が積極的な財政政策を採用し、中央銀行が超緩和的な金融政策を実施していることから、金融市場に大量の余剰資金が流れ込んだという要素も見逃せない。
商品のスーパーサイクルは過去100年で4回生じたとされている。前回(4回目)のサイクルは、1996年に始まり、2008年までの12年間上昇し、その後20年までの12年間は下落局面だったという。
商品市場で最も大きなウエイトを占める原油市場を見てみると、1990年代後半に1バレル=10ドル台だった原油価格が2008年7月には同140ドルにまで上昇した。リーマンショックの勃発で09年3月に1バレル=30ドル台にまで急落した原油価格は、金融緩和政策のおかげで11年から14年にかけて再び同100ドルを突破したが、シェールオイル生産の急拡大のせいで14年後半に再び急落した(逆オイルショック)。
その後1バレル=50~60ドル前後で推移していたが、新型コロナウイルスのパンデミックで20年4月には初めてマイナス価格を記録した。振り返ってみれば、浮き沈みが多かった20年間だったが、今年から新たなスーパーサイクルが始まるのだろうか。
前回のスーパーサイクルで原油価格の上昇を主導したのは、中国経済の台頭という原油需要の急拡大やイラク戦争の勃発などの地政学リスク、さらには金融緩和政策であった。
米WTI原油先物価格は2月15日、約1年1カ月ぶりに1バレル=60ドル台に乗せ、コロナ禍で急落する前の水準に戻った。世界の原油生産量が大幅に減少している影響が大きい。OPECとロシアなどの非加盟産油国からなる「OPECプラス」が世界の原油需要の8%に当たる日量800万バレル規模の減産を実施している。
ここ数年、原油価格が上向けば米国のシェールオイルが増産する場合が多かったが、足元の米国での生産回復のペースは鈍い。コロナ禍前は日量約1300万バレルだった原油生産量は同1100万バレルに減少したままの状態が続いている。業績が悪化したシェール企業は中長期の採算を重視する姿勢を強めており、従来のように「価格が上がればすぐに増産する」という戦略は採りづらくなっているからである。バイデン政権も連邦政府の所有地における新たな原油開発(フラッキングなど)に消極的な姿勢を示していることも逆風である。
これらの要因により、世界の原油需給は日量200万バレルの供給不足に陥っているとされている。昨年の世界のエネルギー分野への投資が18パーセント減少しており、投資不足が中長期的に供給不足をもたらすとの懸念も生じている。
原油生産が停滞していることで米国の原油備蓄量が大幅に減少している。昨年7月の備蓄量は2019年末に比べて1.2億バレルも増加していたが、今年2月には2019年末の水準を2500万バレル下回る状態となっている。米国の追加刺激策への期待も重なって、原油市場に投機資金が流入しており、「原油価格は100ドル超えとなる」との見方が生じている(2月16日付OilPrice)。