リンとチャングはさらに、使用量への影響を分析しています【註6】。マウスウォッシュとガラスクリーナーを用いた実験から、サステナブル商品は一般的商品よりも効果が弱いと感じられているため、一回の使用量が多くなること明らかにしました。この結果は、特に価格意識の高い被験者に顕著に見られています。ただし、追加的に商品の有効性を示す情報を提示した場合には、使用量が減少することも示しています。せっかくサステナブル商品を購入しても使用量が必要以上に増えてしまうのであれば、環境的にも経済的にも望ましいとはいえません。サステナブル商品の販売ではこの点を考慮する必要があります。
サステナブル商品の選択で生じるもう1つのコンフリクトは、「こうしたい」という考えと「こうするべき」という考えが消費者の中で対立することよって生じます。この2つの考え方はバザーマンらが提唱しました【註7】。「こうしたい」は面倒なことは考えずにすぐに喜びを得ることへの欲求で、「願望自己(want self)」と呼ばれます。「こうするべき」は冷静に思考し合理的に判断することへの欲求で、「規範自己(should self)」と呼ばれます。
これらの2つの自己が対立し、どちらかを選ばなければならないという状況は日常生活でよく見られます。ピザを食べるかサラダを食べるか、家でゴロゴロするかジムに行くかなどは典型的な例です。一般に、規範自己に合わせた行動をとるためにはセルフコントールが必要です。衝動的な願望自己を抑えて規範自己を強化するのにかなりのエネルギーを使います。したがって、疲労や睡眠不足などでセルフコントロール資源が不足しているときは、倫理的な行動は減少すると言われています【註3】。このような状態では、面倒な規範自己よりもシンプルで衝動的な願望自己のほうが勝ってしまうのです。
サステナブル商品の選択は規範自己の働きによるものです。サステナブル商品の場合、その特徴を理解するのに時間とエネルギーを使うので、消費者に時間的な余裕と精神的な余裕がなければ注意を向けるのが難しくなります。「サステナブル商品を買うべきである」という規範自己と「他の商品を買いたい」という願望自己が共存するとき、コンフリクトが生じます。
コンフリクトはネガティブな感情を喚起します。また、ネガティブ感情は環境問題や社会問題の深刻な状況を知ることによっても生じます。ネガティブ感情は不快なので、その感情が強いとサステナブル商品を理性的に評価することを難しくします。レクゼックらは、こうしたエネルギーの消耗やネガティブ感情に対処するために消費者がとる戦略は、選択時点でネガティブなエシカルな問題を考えないようにすることだと説明しています。サステナブル商品について知ろうとするのではなく、考えること自体を避けてしまうのです。これは「意図的な無知(willful ignorance)」と呼ばれます。
消費者がサステナブル商品を選択しない理由は他にもあるかもしれませんが、少なくともこの2つのコンフリクトの両方、あるいはいずれかが生じたことにより避けられている可能性があります。サステナブル商品の購入を促進するためには、どのようにしたらこれらのコンフリクトが緩和するのかを考えなければなりません。機能が商品選択の決め手になる製品カテゴリーでは、サステナビリティに関する商品情報に加えて、機能に関するエビデンスの提示があるといいでしょう。
また、消費者にサステナブル商品を迷いなく購入してもらうためには、情報の提示の仕方を工夫する必要があります。情報を得るにも理解するにもそれほど時間やエネルギーを使わなくてすむような形での提示を考えます。レクゼックが提案する情報の標準化と商品パッケージなどへの表示は有効な手段になるでしょう【註8】。また、サステナブル商品には、オーガーニック、グリーン、フェアトレードなど専門用語が多数あるため、それらを十分に理解していないことが購入の障壁になっている可能性があります。これらの情報がわかりやすいメッセージで買い物環境に示されるといいでしょう。