一部の配達員の行いが全体の質や評判を落としていることは、とても残念なことである。コロナ禍において社会的インフラとなりつつあるデリバリー業務を担う一社としてのプライドを矜持してほしいものだ。すべての他社デリバリーの質が担保されていないということではない。配達員個々の資質に加えて、デリバリーを担う会社の教育システムや評価システムに違いがあることが原因ではないかと感じている。
時短要請をうけながらも20時までは店内飲食、その後はテイクアウトやデリバリー対応で営業している飲食店も存在する。もっともアルコール類を提供する店舗は、19時までが酒類の提供時間となる。
原価率の低いアルコール類の販売が19時までとなったことは、飲食店にとって痛手となった。テレワークを実施していない会社の従業員も、17時や18時に仕事を終えてちょっと一杯たしなむには、時間も足りないことだろう。店内飲食、イートインの時間が制限されるなかで、消費者はどのように行動することがベターなのだろうか。
コロナ禍に苦しむ飲食店を支援するためにも、私はあえてテイクアウトの活用をおすすめしたい。可能であれば予約をしないで、または電話でこれから行くと伝えて店頭で待ってほしい。多くのファミリーレストランは、店内飲食の閉店後もデリバリーやテイクアウトに対応している。テイクアウトを勧める理由は、その場で調理されたアツアツの料理を持ち帰ることができるからだ。イートインの温度に近い、ファミリーレストランの味わいをより自宅で再現することができると思う。デリバリーも選択肢のひとつだが、配達員が出払っていると届けるのに時間を要し、料理の温度が下がる可能性がある。
外食産業は、日本の食文化を支える重要な使命を担っている。日本フードサービス協会が公表している外食産業の市場規模を見ると、令和元年は26兆439億円となっている。うち、飲食店の市場規模は14兆5441億円。飲食店に含まれるのはファミリーレストランや一般食堂、立ち食いを含むそば・うどん店、回転寿司を含む寿司店、そしてファストフードのハンバーガー店、お好み焼き店などだ。その構成比は55.8%を占める。これら飲食店業態の営業が滞ることは、当然ながら生産者にも大きな影響が及ぶことになる。
筆者は消費者として多くの店舗を回っているが、ほとんどの飲食店は「感染防止徹底宣言ステッカー」を掲出している。各店舗で可能な限り感染予防に努めている。なかには本当に対策をとっているのか疑わしい飲食店も存在するが、そうした店は消費者の判断で利用を控えればよい。わざわざネット上でそうした飲食店を糾弾する必要はない。正しい対策をとり安全安心に取り組んでいる店舗を適切に利用すること。それが飲食店を支えるために消費者がとるべき行動ではないかと私は考える。
2013年にユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」は、単なる食べ物としてだけでなく、日本人の伝統的な食文化として認定された。氷山でたとえるならば、飲食店は海上に表出している部分にあたり、海の中に隠れた大部分が、それを支える生産者や加工業者となる。コロナ禍においても食文化を守るためには、飲食店を海に沈めるのではなく、生産者も含めて支える仕組みや行動が求められるのではないだろうか。そして、こうした考え方や行動様式は、持続可能な社会・経済づくりの理念とも合致するものではないだろうか。
政策をつくることは専門の人たちに任せるとして、外食を守り、支え、楽しむために、消費者が必要な知識や情報を発信し伝えていくことが、フードアナリストとして私の役割だと思う。
(写真・文=重盛高雄/フードアナリスト)
●重盛高雄
ファストフード、外食産業に詳しいフードアナリストとしてニュース番組、雑誌等に出演多数。2017年はThe Economist誌(英国)に日本のファストフードに詳しいフードアナリストとしてインタビューを受ける。ほかにもBSスカパー「モノクラーベ」にて王将対決、牛丼チェーン対決にご意見番として出演。最近はファストフードを中心にwebニュース媒体において経営・ビジネスの観点からコラムの執筆を行っている。