売り上げ不振に陥っている洋菓子業界内で、300円(税別、以下同)の「スペシャル苺ショート」や、大ヒットした60円の「チョコバッキー バニラ」など、“安くて美味しいお菓子”を武器に快進撃を続けている総合菓子チェーン「シャトレーゼ」。洋菓子だけではなく和菓子やアイス、はたまたワインなども扱い、計400種以上の商品展開をしており、今後さらなる成長が期待されている。
シャトレーゼがリーズナブルな価格帯で商品を販売できる理由として、「ファーム・ファクトリー」と呼ばれる独自のシステム構築が挙げられる。山梨県に本社を置くシャトレーゼは、同県の白州工場を拠点とすることで、相場よりも数割安価に商品を提供できる仕組みをつくり上げているという。素材の調達から生産、物流、店舗販売までをすべて自社でコントロールしており、中間に商社や卸売業者を通すといった必要性がないため、その浮いた費用分で割安にできるというのだ。こうしたメカニズムが存在することはシャトレーゼの大きな強みだといえるだろう。
現在は628店舗(2020年10月6日時点)を展開し、5年間で150店以上増やした実績もある。15年には海外にも進出し、シンガポールを中心に80店舗も構えているというシャトレーゼだが、なぜ好調を維持し続けることができるのだろうか。フードアナリストの重盛高雄氏に話を聞いた。
シャトレーゼが人気を博している理由は、高品質な商品を低価格で提供していることだけにとどまらないという。
「シャトレーゼの戦略として、一つはドミナント戦略を取っていないことが挙げられます。ドミナント戦略とは、小売業がチェーン展開する際に一つの地域に集中して出店する戦略のことで、効果的かつ優れた戦略とも考えられます。実際にドミナント化で成功してきたチェーン店は、飲食業界に限らず数多くあります。
ですが、店名や商品といったブランドを浸透させようと、ドミナント戦略を敷いてその地域に数多く店舗をつくっても、結局はお客様が足を運ばなくなるケースも希ではありません。ですからシャトレーゼは地域内で知名度を上げてプロモーションを行うことよりも、各地域の店舗数は少なくても全国のお客様に幅広く知ってもらうことを重視し、ドミナント戦略をとっていないのでしょう。結果として、同じ地域にシャトレーゼはあまりないためブランドとしての希少価値も生まれ、成功につながったのではないでしょうか。
そして、ドミナント戦略を取らない代わりに、シャトレーゼはその地域のお客様の層や嗜好に合わせた商品展開を積極的に行っているんです。
あくまで一例ですが、ロールケーキひとつとっても違います。千葉県などのシャトレーゼでは1200円で『3種のフルーツロール』を販売しており、東京都・銀座などにあるシャトレーゼの都心型新ブランドYATSUDOKIでは、1500円で『4種果実のフルーツロール』を販売しているんです。後者はおそらく銀座という場所を考慮したうえで、“お土産に買って行こう”というお客様の嗜好に合わせているんでしょう。こうした取り組みが、それぞれの店舗でお客様が途切れない理由にもなっていると考えています」(重盛氏)
昨今のコロナ禍でもシャトレーゼは企業戦略に大きな変更はせず、従来通りの安定重視の方針だという。
「シャトレーゼは、“変わらぬ美味しさ”と“驚き”を両立するといったスタンスを貫いており、その部分はコロナ以前から現在にかけて変更がないように感じます。たとえば、お土産やプレゼントとして喜ばれるような、華やかな見た目の『果実いっぱいフルーツボンブ』というケーキがありますが、これは変わらぬ美味しさでありながら、映える見た目で驚きも与えてくれる商品といえるでしょう。