一漫画だった『鬼滅の刃』が超人気コンテンツに“大化け”したプロセスと要素を分析

 このファン拡大に最も貢献したのが、ネットフリックスやアマゾン・プライムビデオなどのさまざまなネット配信サービスだったと見ています。地上波のテレビ放送しかなければ、見逃してしまえばそれで終わり。周りで話に出ても、ちょっと気になっても、「えー、もう終わっちゃったアニメなのー。残念」となりかねないし、すでに始まっているアニメを第1話から見ることはできない。

 しかし、ネット配信サービスはそれを可能にしてくれたわけです。「えー、そうなの? 鬼滅って、気になってたけど、そんなに面白いの?」って思ったとき、出遅れていても大丈夫。置いてきぼりになることなく、すぐに追いつけるのがネット配信のいいところ。「定額のネット配信で、全部見られるよ」と聞いて、その時点から自分も参加できる話題には、やはり強い拡散力がある。

 小学生のお母さんたちの間で、ネットフリックスやアマゾン・プライムビデオで「一気見」した人も多かったようです。劇場版を子供と見に行く前に、そこまでのストーリーや登場人物くらいは知っておきたい。そしてストーリーに引き込まれたら、その続きである劇場版は絶対見たくなる。まさに、テレビアニメシリーズと劇場版のどちらもが、双方のプロモーションになっているわけです。

 そして、次はコミックの単行本。テレビアニメ化されたお話をコミックスでも読みたくなるし、劇場版の続きを知りたくなったらコミックスを読むしかない。本はあっという間に売り切れて高値の中古本が出回ったりしましたが、ここでもネット通販の電子書籍が大活躍。電子コミックなら「読みたい!」と思ったときに、すぐ「一気読み」ができます。本のように売り切れの心配もなければ、届くまで待つ必要もないので次々と読んでしまいます。

 ネット配信と電子書籍によって、誰もがいつからでも流行りのコンテンツに参加できるようになったのです。

「利他性」と「参加性」が、事業に欠かせない

鬼滅の刃』のヒットは、さまざまな業種のビジネスにどのような示唆を与えてくれるでしょうか。

 ひとつは、「利他的」な視点。その事業が、人々のどういう役に立つのか、社会的な意義は何か、という視点です。この「利他」、つまり人にとっての「利点」を提供するためには、まず「他」が何を求めているか、人々が「共感する」ポイントは何かを見極める必要があるということです。

 若い世代や女性にとって、「人・社会の役に立つ」ことはとても大切です。SDGsなどに対しても、斜に構えることなく真正面から向き合うのが、上の世代の男性と大きく異なるところです。

 もうひとつは、「参加性」の視点。誰もが、その事業の社会性に賛同したとき、簡単にすぐ参加できることが大切です。どんなに人の役に立って社会的意義があっても、参加しにくい仕組みでは、賛同が行動に結びつかず事業として成り立たなくなってしまいます。

「利他的」な社会性と、「参加性」を備えた事業の例を、2つほど挙げてみましょう。

 ひとつめは、「WealthNavi(ウェルスナビ)」。「働く世代に豊かさを」というミッション(社会的使命)のもと、ロボアドバイザー(AIの自動運用)による個人資産運用サービスを提供しています。低金利・退職金の水準が下がる環境下でも、誰もが資産を増やせるよう「長期・積立・分散」運用を推進するため「取引手数料ゼロ」としています。従来型の証券会社の、取引手数料のために、短期で頻繁に売買する顧客を重視していたビジネスモデルとは異なり、「利他性」「社会性」を感じさせます。

 また、金融や運用についての知識がなくても、誰もが、世界の機関投資家や富裕層が利用してきたような高度な資産運用サービスを自動運用で受けられます。また、少額からいつでも始められ、スマホで運用状況やポートフォリオを簡単に見られる点も、「参加性」が高いと言えるでしょう。