楽天と米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)は大手スーパー西友に85%出資する。KKRが65%、楽天が20%で西友の親会社は世界最大のスーパー、ウォルマート・インクからKKRに替わる。ウォルマートは当面、西友株式の15%を保有するとしているが、近い将来、楽天が肩代わりする可能性もある。
コロナ禍で消費者のニーズが変化しており、楽天は「楽天経済圏」の最大化を目指す好機と判断した。楽天が持つ1億人以上の会員基盤やテクノロジーを活用して西友のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進するとしているが、前途は平坦ではない。
楽天の狙いは実店舗だとみられている。これまでリアル側がネットを立ち上げてきた。今回は、ネット側がリアルに進出するかたちだ。西友は全国に300以上の店舗を持ち、3万5000人の従業員がいる。
楽天によるネットと西友のリアル店舗の融合は「本格参入した携帯電話事業以上に難しいかもしれない」(小売業に詳しいアナリスト)。西友の現有スタッフを活性化させて、売る力を取り戻さなければならない。ウォルマートから派遣された、現場を見ない、知らない経営陣と営業最前線の意識の乖離が起こっている。経営陣と現場の一体感の醸成は難しい。
西友はセゾングループの有力企業だった。最盛期には「西のダイエー、東の西友」と呼ばれた。堤清二氏が率いるセゾングループは一時期、西武百貨店を核に、スーパーの西友、「無印良品」の良品計画、コンビニのファミリーマートを擁する巨大流通グループを形成した。バブル崩壊でグループの西洋環境開発の不動産投資の失敗が発覚。セゾングループの経営危機で西友の経営も暗転した。2000年、住友商事が筆頭株主になったが、小売業のノウハウのない住商では経営できず、日本進出を狙っていた米ウォルマートに身売りした。
02年、業務提携し、08年に約1000億円を投じ完全子会社にした。ウォルマートは西友に総額2400億円以上を投下したが、最大の誤算は「エブリデー・ロープライス(EDLP)」が日本では通用しなかったことだ。特売のチラシで集客するスーパー商法に慣れた日本の消費者は、安売りなしの毎日が低価格の西友では「お買い得」を実感できなかった。西友の年商は7000億円規模だが、ウォルマート日本法人の19年12月期決算の純利益がわずか4700万円だったことからわかるように、利益はほとんど出ていなかった。
ウォルマートの米国本社は早くから西友に見切りをつけていた。18年に売却に動いたが「3000億円以上といわれた売却額が高すぎ、どこも手を挙げなかった」と流通グループのトップは語る。ウォルマートは「経営再建して株式を上場」へと軌道修正を試みたが、結局うまく行かず、今回の事実上の撤退となった。
楽天は18年、ウォルマートと日本のEC(電子商取引)で提携し、同年秋に西友とネットスーパー事業を始めた。楽天西友ネットスーパーは、まだ赤字だが、コロナ禍で外出を控える動きが広がったことから、7~9月の売上高は前年同期比36%増、10月は55%増と大きく伸びた。事業拡大に向け21年、横浜市内でネットスーパー専用の物流施設を稼働させる予定だ。
「生鮮を含む商品のカテゴリーは日本の小売市場の半分を占めるが、EC化比率はまだ低い。この分野を取り込む」と楽天の小森紀昭執行役員(楽天西友ネットスーパー社長)は目論む。今回の西友買収の発表で楽天の株価はほとんど動かなかった。「西友への出資は18年の提携段階で、ある程度予想できた。出資額も小さくサプライズがなかった」(同)。