ANAHDもJALも共通して、コロナ禍からの出口戦略の先兵として、国内線も国際線でもLCCの活用を積極的に推進しようとしている。しかし、世界的にみると、同じように子会社LCCを持つ大手航空会社のなかでも対応は分かれている。ドイツのルフトハンザは子会社LCC ユーロウィングスの規模を縮小したし、英国のブリティッシュ・エアウェイズの持株会社IAGはグループ内LCCレベルの欧州子会社を清算した。一方、同じヨーロッパでも、エールフランスは、パイロット組合と交渉を重ねて同意を取り付け、子会社LCCトランサヴィア・フランスの活用を拡大しようとしている。
このように大手航空による子会社LCCの活用で対応が分かれるのは、国・地域によって独立系LCCの存在感も違い、子会社LCCの効能も変わってくるためであろう。加えて、そもそも論として、LCCのビジネスモデルがコロナ禍の下で有効に働くのかという論点もある。
「コロナ禍でLCCのビジネスモデルは機能できないのではないか?」という懐疑的な声も根強くある。旅客需要喪失に加え、衛生管理で余計なコストがかかりローコストモデルの成立が危ぶまれるとの見方だ。事実、日本ではエアアジア・ジャパンが親会社エアアジアの資金繰り困窮の影響もあり、事業を廃止し破産に至った。ジェットスター・ジャパンも路線を縮小し、かつパイロットと客室乗務員を対象に希望退職や長期休暇を募っている。海外では、タイのLCCノックスクートが6月に経営破綻し会社清算されたし、その親会社のLCC ノックエアも経営破綻し会社更生法適用となっている。しかし、この未曽有の需要喪失下にあって、苦境はLCCも大手航空も同じであり、経営破綻や企業再生に入ったのは、世界的にはLCCよりむしろ大手航空のほうが多い。
コロナ禍とLCCビジネスモデルとの相関に関しては、次のように不利な面と逆に有利な面の両方が挙げられる。
1) コロナ禍でLCCに不利な面
・衛生管理に伴う運航コストの増大
・衛生管理によりLCCモデル特有の短い折り返し/高頻度運航が阻害される可能性
2) コロナ禍の下でLCCに有利な面
・航空需要がダウンサイズするためナローボディ機(単通路機)が有利
・ポイント・トゥ・ポイントの単純なビジネスモデルであり、ハブ・アンド・スポークの大手航空に比べ、路線設定・運営を柔軟に対応可能
・固定費による資金流失の規模が大手航空より小さく、より長く耐え忍べる
・消費者の購買力が落ちており安い航空券が選好される
上に示した有利な面が発揮されれば、LCCの活躍の可能性が生まれてくる。加えて、今般のコロナ禍のような年単位で需要が喪失する空前絶後の状況は別として、もともとLCCはイベントリスクに強いともいわれている。
2001年の9.11同時多発テロ、および08年のリーマンショック後の世界同時不況は、共に世界の航空に深刻な打撃を与えた代表的なイベントリスクである。米国では、当時6つあった大手航空会社のすべてが記録的な赤字経営に陥り、その後、破産法11条の適用となり、合併、吸収も経て、現在の3つの大手航空会社(アメリカン、デルタ、ユナイテッド)となった。ところが、そういった大手航空会社の苦難を尻目に、LCCであるサウスウェスト航空とジェットブルーは黒字経営を維持し続け、むしろイベントリスクをテコにして規模を拡大したのである。