ローランド上場廃止→再上場で、米投資ファンドはどのように巨額利益を得たのか?

 両者の対立は、ローランドの子会社、ローランド ディー.ジー.(DG)(浜松市、東証1部上場)の経営をめぐってだった。DGは広告・看板向けインクジェットプリンターで世界首位級の優良企業だ。ローランドはMBOに先立ち、DG株の一部をDGに売却。DGはローランドの連結決算の対象から外れた。

 14年6月27日、ローランドの定時株主総会に車イスで出席した梯氏は「MBOをやると、DG(の株)もそのままついてくる。(タイヨウにとって)こんなおいしい話はない。それ、わかっていますか」と質問。MBOではドル箱のDGを手に入れるタイヨウだけが利益を得る、「投資ファンドによる乗っ取りだ」と反対したわけだ。三木社長は「DGに関しては、タイヨウは経営権を取るつもりのないことが表明されている」と反論した。

 三木社長が代表取締役を務める特別目的会社が実施したTOBは成立。ローランドは14年10月、上場廃止となった。

タイヨウは労せずしてローランドとローランドDGを手に入れた?

 上場廃止後、買い付け会社とローランドは合併し、新しいローランドが発足した。タイヨウによるローランド買収作戦は、すべてうまくいった。買い付け会社はTOB資金416億円のうち325億円を、りそな銀行から借りた。残り91億円をタイヨウが出資した。ローランドがDG株をDGに売却した代金114億円は借入金の返済に充てられる。だから、りそな銀行は気前よく融資した。

 ローランドはDG株の20%を売却した後も、DGの議決権の25%を保有していた。DGが取得した自社株には議決権がない。タイヨウは保有していた分と合わせると、DGの議決権の割合は37%に高まり、拒否権をもつ圧倒的な大株主になったわけだ。

 DG株を一部売却したのはTOBを成功させる手段だった。稼ぎ頭のDGが連結対象から外れたことでローランドの業績悪化は必至である。TOBが成立せず上場廃止できなければ、株価の下落は避けられない。「ここはTOBに応募して高値で売ったほうが得だ」と株主は考えた。タイヨウは91億円を出資しただけで、ローランドのすべてを手に入れたことになる。創業者の梯氏は「会社をファンドに売り渡した」と嘆いた。

 タイヨウを仕切っているのは、米国でも“乗っ取り屋”の異名を持つウィルバー・ロス氏だ。日本長期信用銀行の買収でも暗躍した人物として知られている。M&Aに疎いサラリーマン社長の三木氏を手玉に取るくらい、何の造作もなかった。ローランドの再上場でタイヨウは巨万の富を手にする。

 梯氏は17年4月1日、87歳で死去した。梯氏は株主総会で「今日が私にとっての最後の総会。私の名前を創業者として今後いっさい使わないでほしい」と述べた。TOBの成立を受け、地元、静岡新聞の取材に、梯氏は「残念。こんな乗っ取られ方では会社も、一緒にがんばってきた技術者たちも気の毒だ」と悔しさを滲ませた。

(文=編集部)