総額20万円の旅行の場合、7万円の割引となり、さらに3万円のクーポン券ももらえる。コロナ禍で瀕死の状態に陥った観光業界を救うのがGo To事業の趣旨である。国の委託を受けて事務局を構成しているのはツーリズム産業共同提案体。日本旅行業協会(JATA)、全国旅行業協会(ANTA)など業界団体に加え、JTB、近畿日本ツーリストの持株会社・KNT-CTホールディングス、日本旅行、東武トップツアーズの大手旅行代理店4社が人員を出した。
4社から各都道府県の事務局に社員が出向している。東京の事務局では435人の出向者のうち約4割、174人がJTBの社員。「週刊文春」(文藝春秋)の報道によれば、出向社員には高額な日当が支払われていた。平均日当は4万円。月に25日に働けば100万円となる。日当の原資は事業費である。
出向者は会社から給料をもらっているわけだから、日当はまるまる会社の収入になる。高額日当というかたちで資金が注ぎ込まれたわけで、「JTB優遇策」との批判が渦巻いていた。事務局に入っている大手はGo Toがどんな仕組みになるかを先行して知ることができる。システムの構築を手はじめに準備万端を整えてGo Toに取り組めた。他方、中小は発表があって初めて内容を知るしか手立てがなかった。
Go Toトラベルは事務局の中心に座るJTBの圧勝とみられていた。ところが、蓋を開けてみたら、個人客が殺到したのは、じゃらんnetや楽天トラベルなど、ネット専門の旅行予約サイトだった。事務局を事実上握って、もっともメリットが大きいとみられていたJTBへの利益の貢献は小さかった。
その結果が店舗と人員の削減。営業でもデジタル化を急ぐ。ネット販売に適した商品を拡大し、予約サイトなどで価格比較になじんだネット利用者を取り込む。JTBは財団法人日本交通公社の営業部門が分割、民営化され、日本交通公社として発足した企業。JTBに社名変更。女性の就職人気ランキングでトップになったことで知られるが、株式を公開していない。
人員削減について山北栄二郎社長は「人材は会社の財産なので断腸の思いだ。来期は確実に黒字化する」と述べている。業績回復の起爆剤となるはずだったGo Toトラベルで新規のニーズを取り逃がし、大リストラの実施に追い込まれたにもかかわらず、「上場していないことをいいことに山北社長が経営責任を取ろうとしない」(関係者)。
上場会社であれば株価は下落し、経営責任を問う声が起こったことだろう。
(文=編集部)