学校図書館の現場では、教員と学校司書が緊密に連携すればするほど教育効果は高まるといわれる。しかし、民間委託にすると偽装請負の違法状態に陥りかねないリスクがついてまわる。逆に、違法行為にならないよう学校側と司書の業務を完全に切り離すと、今度は現場で打ち合わせすらまともにできず、生徒への教育効果が極端に薄れてしまう。
都立高校の偽装請負事件は、そうした二律背反した問題の存在がクローズアップされて、民間委託を再考するまたとないチャンスだった。それにもかかわらず、東京都が公表しなかったために、全国的に教育現場に違法性の無自覚な偽装請負が広がっていったといえる。
都立高校の民間委託見直しは全国の学校図書館のみならず、一部委託で運営されている公共図書館に与える影響も、決して小さくはないだろう。
施設丸ごと運営を任され、トップの館長も民間の社員となる指定管理者ならば、偽装請負に陥るリスクは低い。だが、指定管理者ではない、一部業務のみ委託している図書館も多く、学校図書館と似たような状況だからだ。
その点について「東京の図書館をもっとよくする会」の池沢昇事務局長は、こう話す。
「東京都はさすがに、違法に見えないように仕様書をつくります。東京労働局の是正指導によって、偽装請負を偽装請負に見えないようにする仕組みを取り入れました。これが業務責任者の配置です。他の自治体では労働法の知識がないため、学校図書館業務が円滑にいくように平気で違法・脱法に見えるものを仕様書に入れています。現場では、委託スタッフと学校教員との密接な連携がなければ、学校図書館運営に支障が出ます。違法・脱法は日常にならざるを得ません。東京都のように細工していても違法性は回避できず、民間委託を見直しせざるを得なくなったということが広く知られるようになれば、直営に戻す自治体が次々に出てくるかもしれません」
違法認定されるリスクだけではない。民間委託によるコスト削減効果すら、かなり怪しくなっている。都立高校1校当たりの委託費は、15年当時から比べると2倍近くまで跳ね上がっている。「高い、遅い、まずい」の三拍子揃った民間委託に、果たして価値はあるのだろうか。
前出の米川都議が、こう続ける。
「残念ながら都教委は、まだ都立高校の学校図書館をすべて直営に戻すとまでは明言していません。民間委託も残しつつ直接雇用を併用するにとどまっていますが、もしそれでお茶を濁すようなら、偽装請負の問題が再燃するのはもちろんのこと、なぜか特定の事業者が選定されている不自然な落札状況にも注目が集まるでしょう」
都立高校の民間委託の見直し方針は、急速に進められてきた図書館の民間委託の大きな転換点になるかもしれない。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)