パナソニックはテスラに振り回され見捨てられるのか?注力の車載・住宅事業、撤退も示唆

 新しい中計は津賀時代の幕開きを意味した。長年看板だったテレビに代わって、今後の柱となる事業として自動車と住宅を挙げた。創業100周年の19年3月期に「連結売上高10兆円」を目指す方針を打ち出した。

 自動車と住宅を成長分野に据え、車載電池に巨額投資をした。米電気自動車(EV)のテスラと共同で米ネバタ州に電池工場を建設した。工場が完成する20年までの総投資額は約6000億円で、パナソニックの負担は1900億円に達する。

 世界の大手自動車メーカーに直接部品を供給する有力企業は10社程度しかない。自動車部品メーカーのトップは独ボッシュ。2位はトヨタ自動車系のデンソー、6位が同じトヨタ系のアイシン精機である。津賀氏は「自動車部品で世界トップ10に入る」と言い切った。車載電池への積極投資は、その一環である。

 しかし、中国経済の失速を理由に「売上高10兆円」の目標を16年に撤回し、利益重視に転換した。この時が経営をバトンタッチする好機であったが、津賀氏は続投する。成長戦略は見直され、再び構造改革に力を注ぐことになる。

津賀改革が迷走したのはコア事業が育たなかったから

 21年3月期決算は、津賀改革の最終的な通信簿となる。20年4~9月期連結決算(国際会計基準)の売上高は前年同期比20.4%減の3兆591億円、純利益は51.6%減の488億円だった。新型コロナウイルスの影響で大幅な減産となった航空機の座席に備え付けられるディスプレーなど娯楽機器の苦戦が響いた。

 製造業を中心に21年3月期通期予想の下方修正が相次ぐなか、パナソニックは見通しを据え置いた。通期の売上高は前期比13.2%減の6兆5000億円、純利益は55.7%減の1000億円の見込み。年商6兆5000億円というのは旧三洋電機を買収する以前の水準だ。業績の足踏みはコロナだけが原因ではない。

 パナソニックの悩みは「コアになる事業がない」(佐藤基嗣副社長)ことだ。21年3月期通期の売上高営業利益率は目標だった5%の半分にも満たない2%にとどまる見込みだ。コモディティー(汎用品)化が進む家電から「BtoB」(企業間取引)にシフトしてきたが、なかなか成果が出ない。「BtoB」には低収益の事業がかなりある。

 なかでも最大の誤算は自動車関連だ。米テスラにEVの電池を納める事業は「今期は黒字か赤字か微妙なところ」(梅田博和最高財務責任者)。自動車関連事業の営業損益は340億円の赤字(前期は466億円の赤字)の見通し。

「自動車部品の世界トップ10入り」(津賀社長)を目指し、最も力を入れてきた自動車関連事業で、結局、成果を出せなかった。津賀氏は9年あまりの長期政権となったが、引退の花道は飾れなかった。「破壊と創造」を繰り返してきた津賀改革は未完のまま終わる。

テスラとのビジネスをどうするのか

 米テスラは新型の車載電池の内製化を明らかにした。「津賀氏はテスラのイーロン・マスクCEOに振り回された」(関係者)という指摘がある。パナソニックはEVシフトが急速に進むであろう欧州市場でEV電池工場の新設を検討している。

 米テスラとの連携の交通整理が必要な段階に入ったというのが関係者の一致した見方だ。「テスラはパナソニックを見捨てるだろう」(自動車の最先端技術に詳しいアナリスト)との厳しい見方もある。

 米国、中国、欧州のそれぞれの市場でテスラはどのように動くのか。楠見・新社長は米テスラのマスクCEOとどう対峙していくのだろうか。さっそく、楠見氏の経営手腕が問われることになる。

(文=編集部)