ソフトバンクG、3000億円超の損失発生か…決算の「見えない部分」に疑心広がる

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ソフトバンクショップ(「Wikipedia」より/Kirakirameister)

 米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)電子版が日本時間の13日早朝に、「中国アリババ集団傘下のアント・グループの香港・上海の取引所への新規上場を巡り、習近平国家主席が自ら上場中止を決めた」と報じた。アリババに対する締め付け強化の懸念が、同社に出資しているソフトバンクグループ(SBG)株の上値を重くしている。

 中国の電子決済サービス「アリペイ」を運営するアント・グループは今月5日に、香港・上海に同時上場を予定していたが、直前の3日になって突如延期された。市場から吸収する資金は3兆6000億円規模。昨年のサウジアラムコを抜き「史上最大のIPO(新規上場)」となるはずだった。これだけの規模のIPOが、公開予定の2日前という土壇場で延期されるのは前代未聞のことだ。

 アントは中国の電子商取引最大手、アリババ集団の金融会社。アリババが33%、創業者の馬雲(ジャック・マー)氏が8.8%を出資している。そしてアリババ株式の約25%をSBGが保有しているという構図になっている。上海や香港のIPOには日本の個人投資家はなかなか参加できない。SBG株を保有することで間接的にアント株を取り込もうとする投資家が出てきたとしても不思議はない。

 WSJによるとアリババ集団の創業者で中国最大の資産家の馬雲氏が中国の金融当局を批判する発言をしたことが、上場中止の引き金になったという。馬氏は10月24日、上海で開かれた銀行界の大物や金融監督局や政府の要人が出席した会合で講演。技術革新を通じ中国の金融問題の解決を支援するとの考えを示し、政府による規制の厳格化が技術開発を抑えていると監督当局や銀行を公然と批判した。

 外国通信社の報道によると「中国の銀行はまるで『質屋』程度の感覚で営業していると率直に意見を表明した」という。習主席は報告書を読み激怒。当局にアントの上場を調査して中止させるよう命じた、と伝わる。

 中国当局は11月2日に馬氏を呼び出し、新たな規制案を公表。翌3日にアントは上場延期となった。まさに「口は災いのもと」である。

 WSJは「資本と影響力を持つ大規模な民間企業に対し、習氏の許容度が低くなってきたことを示している」と指摘した。SBGの孫正義会長兼社長と馬氏は2000年に北京市内のホテルで初めて出会い、孫氏はその場でアリババへの出資を即決した。これをきっかけに2人は盟友関係を築き、孫氏はアリババの取締役に、馬氏もSBGの取締役に名を連ねた。

 SBGの今年6月25日の株主総会を最後に馬氏は取締役を退任した。07年から10年以上にわたりSBGの取締役を務めたことになる。馬氏は19年9月、アリババの会長職を退任、20年10月に取締役も退いた。退任後は教育を中心とした慈善活動に力を注ぐとしていたが、出鼻をくじかれた格好だ。

投資損益は1兆504億円の黒字に転換

 SBGが11月9日発表した2020年9月中間決算(国際会計基準)は、純利益が前年同期の4.5倍の1兆8832億円となった。前年同月比の純利益は中間期としては過去最高。傘下の投資ファンドの投資先が上場するなどして含み益が膨らんだ。昨年は投資の失敗で業績が無惨に悪化したが、市場環境の回復を追い風に復調ぶりを鮮明にした。売上高は3.6%増の2兆6305億円。携帯電話事業会社ソフトバンクの業績がテレワーク関連で堅調だった。

 昨年は米シェアオフィス、ウィーワークが経営不振に陥り、ファンド事業で巨額の評価損を計上した。営業損益は155億円の赤字で15年ぶりに赤字に転落した。今期は一転してファンド事業が好調となったが、営業損益自体の公表は20年4~6月期からやめており、比較はできない。