「ソフトバンクグループ(SBG)は投資会社であり、事業会社ではありません」
孫正義会長兼社長は2月12日に開催した決算説明会で、こう断言した。「では、これからは孫さんのことを投資家と呼んでいいですか」と記者が問い掛けると、孫社長は「投資の神様」と呼ばれるウォーレン・バフェット氏に言及し、「私はウォーレンのような『賢い投資家』ではありませんが、『冒険投資家』です」と答えた。
SBGが米国株式市場で想定元本ベースで数兆円のデリバティブ取引を行っていたと報じられ、これが米ハイテク株の乱高下の一因とされた。9月6日付英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は「SBGはデリバティブ取引で約40億ドル(約4200億円)の含み益が出ている」と報じた。さらに、SBGの株主が「米国株のオプション取引の責任者は誰なのか、情報を開示するよう要求した」と伝えた。米国株に投資している資産運用部門がいつ設立されたのか、投資委員会のメンバーは誰なのか。孫社長が密接に関与していること以外、まったくわからないからである。
「SBGは未公開株への投資の巨人から、上場株投資のファンドマネージャーに“変身”したのか」(NY在住のアナリスト)といった懐疑的な声が上がる。欧米の報道によると、SBGはコール(買う権利)と呼ばれるオプションで、あらかじめ決めた値段で個別銘柄を購入する権利を40億ドル(4200億円)分購入し、現物株換算で300億ドルに上る可能性があるという。
SBGは資本金600億円で設立した資産運用会社に関して、「投資手法は直接投資、あるいはデリバティブ」と説明した。「資産運用会社になったのなら、新興企業投資に不可欠な新技術を発掘する目利きはいらなくなる」(市場筋)という声も聞こえてくる。
株取引に傾斜する孫社長の方針に、SBG社内に戸惑いに似た声が漏れているのは事実だ。傘下のソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)などを通して、スタートアップ企業を育てる面白さに目覚めた社員と、上場株投資に走る孫社長の落差は大きい。主要株主になって経営に携わるスタートアップ事業への投資と、ポートフフォリオが勝負を決めるニューヨークでのハイテク上場株への投資は本質的に異なる。求められる目利き人の能力は、まったく別物だ。
FTは9月13日、「SBGが株式非公開化を検討している」「株式非公開化はSBGの保有資産の価値と実際の株価の隔たりに(孫氏が)不満があるためだ」と報じた。運用額10兆円規模のSVFを設立以降、投資会社としての性格を強めていることが背景にある。投資会社なら上場している必要性は薄れる。
「SBGは傘下の英アーム売却で合意した後、株式非公開化について協議を再開する方針だ。SBGの幹部は、先に社内で反対された経営陣による自社買収(MBO)計画を再開する。(中略)株式非公開化の検討は初期の段階であり、実現しない可能性もある。この計画に対する同社幹部の見解はまとまっておらず、多くのベテラン幹部が反対していると関係者の一人は述べた」(米通信社ブルームバーグ)
SBGは9月14日、傘下の英半導体設計大手アームホールディングスの全株式を米半導体大手エヌビディアに最大400億ドル(約4.2兆円)で売却すると発表した。この時、「売却のディテール(詳細)は孫さんしか知らない」という噂が駆けめぐった。4.2兆円のうち半分超をエヌビディア株式で受け取る契約になっており、SBGはエヌビディア株の6.7~8.1%を保有する大株主となる。