2016年に3.3兆円で買収したアームを最大4.2兆円で売却する。買収時は「高値づかみ」と指摘されたが、結果的に巨額の利益を得る見通しとなった。このところ携帯電話など通信・ネット関連事業を次々と切り離しており、アーム株の売却で、事業会社から投資会社への変身がより鮮明になった。次なる大仕事はSBGの株式非公開。「今年に入ってからも一度検討されたが、資産売却を優先して、白紙に戻した」(関係者)。「MBOは十分ありうる話」と金融・証券界では受け止めている。
「上場企業だと投資先などについて株主に説明する必要があるが、それが面倒になっている。アラブの金主など大口株主から無謀な運用をしないよう、うるさく言われる。孫さんは、そういうことは平気で無視するが、一番気にしているのは株価」(外資系証券会社のアナリスト)
リーマン危機の2008年秋に株価が大きく下落した折、孫社長は“軍師”と呼ばれた元取締役の笠井和彦氏に「アナリストやジャーナリストへの説明が面倒。いっそ個人で会社を背負おうかと思う」と相談したところ、「夢をちっちゃくしていいんですか」と強く諫められ見送った。笠井氏の「お別れの会」の弔辞のなかで、孫社長自身が明らかにした。
富士銀行(現みずほ銀行)副頭取で「為替の神様」といわれた笠井氏は、孫氏に三顧の礼をもって招かれた。表には一切出なかったが孫氏の軍師としてM&Aを仕切った。傘下の米通信会社スプリントの株価低迷が顕著になった2015年秋にも、「携帯電話事業に興味を失い、非上場化して投資事業に変身することを意図した。このときは海外の出資候補者と協議したが条件面で折り合いがつかず断念した」(前出の関係者)。
孫社長が再三MBOを検討するのは、「プライベート(企業)のほうが経営の自由度もあるし、いろいろなリスクも取りやすいから」だろう。MBO資金は投資ファンドから借りることになる。上場していれば株主は分散しているが、非上場になると9割以上は紐付きとなる。業績が良ければファンドによる乗っ取りを警戒しなければならない。業績が悪ければ、資金を返せ、とうるさく言われる。MBOには上場企業のときとは、まったく別次元のリスクが伴う。
SBGは子会社の事業会社、ソフトバンクやヤフーとZOZO(ゾゾ)が経営統合したZホールディングスの株式を公開している。親会社が非上場で子会社が上場しているというのは論理的に考えるとおかしい。連結決算の数字が見えなくなり、決算は透明性に欠ける。しかし、「孫さんはそんなことは気にしない」と周辺は断言する。
「冒険投資家」孫正義氏はどこへ向かおうとしているのか。「株主がガタガタ言うなら、MBOによってSBGを非上場にするしかない」と、今度は本気で決断するかもしれない。
(文=編集部)